【6月3日 AFP】ドイツのホルスト・ケーラー(Horst Koehler)大統領(67)の今週の電撃辞任は、ブロガーたちの存在なしでは起こらなかったかもしれない。

 ケーラー大統領は5月22日に放送されたインタビューで、アフガニスタンなどへドイツ軍を派遣する動機の一部には、ドイツの経済的利益を保護するという営利的な側面があることを示唆した。

 各新聞雑誌はこぞって大統領を非難。コメンテーターたちは「砲艦外交」だと攻め立てた。こうした批判に耐えられず、大統領は発言が誤解されたと述べて突然辞任し、社会を驚かせた。

 しかし当初、大手メディアは問題のインタビューを大きく取り上げなかった。大統領の失言を最初にとらえたのは一部のブロガーたちで、大手メディアは後を追う形になった。ブロガーたちが取り上げなければ、この発言は忘れ去られていた可能性が高い。

 もっとも、政治関連のブログを書く20歳の学生ヨナス・シャイブル(Jonas Schaible)さんやステファン・グラウンケ(Stefan Graunke)さんは、自分たちのブログが大統領辞任の引き金になったとは思えないと言う。

■主流メディアと影響し合う

 グラウンケさんは2日、ブログにこう書いた。「インタビューの申し込みがあるけれど断っている。僕が一連の動きの先頭にいたとは思っていない。ただネットワークの一部だっただけだ」

 シャイブルさんも「僕がホルスト・ケーラーを辞任させたわけじゃない。ドイツのブロガーの全員について同じことが言える。こうしたことを起こすほどブログのコミュニティに影響力はない」と語る。「1か月の読者が1000人にしかいないブロガーが大統領を倒せるかって?そうだったらすごいなとは思うけれど、真剣な話、誰もそんなことが起こるって信じないよ」

 しかし彼らは少々、控えめすぎるようだ。

 ハンブルク大学(University of Hamburg )のメディア研究者、ヤン・ヒンリック・シュミット(Jan-Hinrik Schmidt)氏は、インターネットが大統領を辞任に追い込んだわけではないが、と前置きしながら「興味深いのはブログと既存の主流メディアが影響を与え合っている点だ。忘れられていた問題が復活し、プロのジャーナリストがミスをすれば(ブロガーが)正すといった具合だ」と分析する。その上で「ブロゴスフィア(ブログの世界)はすっかり世論の一部になっている」と言う。

 ブログの重要性は増している。前述のグラウンケさんはその理由について「ブロガーが既存メディアに対抗しようとしているからではなく、伝統的なジャーナリズムが自分の使命を自分だけで果たすことがどんどん難しくなっているからだ」とみる。「目はたくさんあったほうが、物事をよく見ることができる、ということでしょう」(c)AFP/Lenaig Bredoux

【参考】シャイブルさんのブログ「beim wort genommen」
【参考】グラウンケさんのブログ「UnPolitik.de」
(いずれもドイツ語)