【4月8日 AFP】(一部訂正)米オバマ政権が6日に発表した核戦略報告書「核態勢の見直し」(Nuclear Posture ReviewNPR)に対し、日本を始めとするアジア諸国は歓迎を示したが、その背後にはもう少し複雑な受け止め方があると専門家らは見ている。
 
 バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領が演説で「核兵器のない世界」というビジョンを示してから1年。米政府は今回、歴代米政権の方針から転換し、初めて核拡散防止条約(Non-Proliferation TreatyNPT)を遵守する非核保有国に対しては核兵器を使用しないことを宣言した。次週にはワシントンD.C.(Washington D.C.)で核安全保障サミットが開幕する。

■日本の「矛盾」にNPRが与える影響

 米政府の新方針を称賛とともに受け止めたのは、日本と韓国だ。鳩山由紀夫(Yukio Hatoyama)首相は「核のない世界に向けた第一歩だ」との談話を発表した。約半世紀続いた保守政権からの交替後、在日米軍基地の見直し問題が迷走する鳩山政権にとって、今回の新方針はオバマ政権とのきずなを強めるきっかけともなり得る。
 
 世界で唯一の被爆国である日本はつねづね核兵器廃絶を訴えてきた。しかし、平和憲法を掲げる一方で、安全保障は日米安全保障同盟に頼っている。

「日本では常に、エリート層の考えと世論の間に断絶がある」と、米シンクタンク「戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)」太平洋フォーラムのラルフ・コーザ(Ralph Cossa)氏は語る。

「世論のほうが核兵器に対するアレルギーはずっと強い。けれどエリート層は、核兵器はなくさなければならないが、もし最後の1国が持ち続け、それが中国だったらどうする、と考える。それならば米国の核の傘に入りたい、と。ただ、新政権(鳩山政権)は、これまでの政府よりもずっと世論の考えに近いかもしれない」

 保守派の米シンクタンク「ヘリテージ財団(Heritage Foundation)」のアジア専門家、ブルース・クリンガー(Bruce Klingner)氏は、日本のスタンスは「本質的に矛盾している」と指摘する。「現政権も含めて日本の歴代政権は、言葉の上では(軍縮を)目標に掲げつつ、現実には米国の核の傘を維持したいと願うことにまったく矛盾を見いだしていない」

 NPRでは、核搭載型巡航ミサイル「トマホーク(TomahawkTLAM-N)」を徐々に退役させる方針も示された。ジェームズ・ミラー(James Miller)国防筆頭副次官(政策担当)は7日の会見で、トマホーク退役について日本や韓国とも緊密に協議した結果、「北東アジアにおける効果的な抑止力として不必要なシステムだとの見解で一致した」と述べた。

■中国、インドの反応は

 米野党・共和党からは、NPRは中国の急速な軍事力増強を見落としているとの批判も上がっている。中国の核保有量については諸説あるが、数百個の核弾頭を保有しているとみられている。

 CSISのコーザ氏によると、中国には核弾頭削減について「適切な時期に」協議する用意があることを私的にほのめかす中国高官もいるという。「適切な時期」とは、米国がさらなる削減を打ち出すまで待つ戦略だと同氏は解釈する。

 米国の方針転換に対する反応が鈍いと思われるのは、インドだ。インドは1998年に核実験を行って核保有国の一角に加わったが、核不拡散条約(Non-Proliferation TreatyNPT)は不平等条約だとして批准していない。核兵器のない世界を目指したいという目標はオバマ政権と共有しているが、インドが「核による先制攻撃はしない」との原則を掲げている一方、米国は今回のNPRでも核先制不使用そのものは宣言していない。(c)AFP/Shaun Tandon