【7月16日 AFP】中国・新疆ウイグル自治区(Xinjiang Uighur Autonomous Region)の区都ウルムチ(Urumqi)で今月、暴動が発生し、多数の死者が出た。専門家は、今回の暴動は前年同チベット(Tibet)自治区で起きた暴動に酷似しており、暴動の背景にある理由の多くも同様だと指摘する。

 ウルムチで起きた暴動と、1年4か月前にチベット自治区の区都ラサ(Lhasa)で起きた暴動の中心にいたのは、少数派民族のイスラム教徒のウイグル人とチベット仏教徒のチベット人だ。

 ウイグル人とチベット人は、多数派民族である漢人を激しく非難した。彼らの目には、両民族が忌み嫌う両自治区における漢化政策を、漢人が代表しているように映るからだ。

「これらの出来事によって、(2つの地域での)憎しみと恐れの構図が浮き彫りになった」と、チベット問題についての著書もある専門家クロード・リーベンソン(Claude Levenson)氏は話す。

■中国政府の政策に憤り

 アナリストらの分析によれば、チベット自治区と同様、新疆ウイグル自治区の暴動に参加した人びとは、漢人数百万人を辺境にある自治区に移住させようとする中国政府の政策に対し、深い憤りを感じているという。

 中国政府による移住政策によって、ウルムチやラサの人口構成も変わり、いまや漢人は、ウルムチの人口の75%、ラサの人口の17%を占めている。政府は一方で、貧困対策として数十万ドルを両自治区に投入しているが、ウイグル人もチベット人も自分たちの土地で2級市民に追いやられていると不満をこぼす。

 米カリフォルニア(California)州にあるパモナ大学(Pomona College)の中国少数派民族専門家で、中でもトルコ系のウイグル人問題に詳しいドリュ・グラッドニー(Dru Gladney)氏は、「中国政府は、60年前から同じ少数派民族政策を続けている」「1つの発展モデルだけでは、強固なアイデンティティーをもつ新疆やチベットのような所では効果がない」と指摘する。

■少ない死者数

 両自治区での暴動が類似しているもう1つの点は、両民族の海外亡命団体が、中国政府は暴動での死者数を少なく見積もっていると指摘している点だ。

 ウルムチでの暴動については、政府は5日に最初の暴動が発生した際の死者を184人と発表。さらに13日には、警察がウイグル人2人を殺害したことを当局が確認している。チベットや、他のチベット人居住地区での暴動に関しては、当局は「暴徒」が21人を殺害したと発表している。

 しかし、亡命団体によると、新疆ウイグル自治区で数千人、チベット暴動では200人以上が死亡した可能性があり、多くは暴動鎮圧の際に犠牲になったという。

■亡命中の指導者を非難

 新疆ウイグル自治区での暴動は、チベット自治区での暴動と同様、国際社会に大きな衝撃を与えた。欧米に亡命したウイグル人やチベット人も、情報をつぎつぎと流したが、情報の確認がとれないことも多く、必ずしも信頼できるとは限らないものもあった。

 中国政府は、両自治区の暴動とも、亡命した人物の責任だと非難した。米国に亡命中の「世界ウイグル会議(World Uighur Congress、本部ドイツ・ミュンヘン)」のラビア・カーディル(Rebiya Kadeer)主席と、インドに亡命中のチベット仏教最高指導者ダライ・ラマ(Dalai Lama)14世だ。2人は、それぞれの文化を守ろうと苦闘する両民族の象徴的人物だ。

 中国政府は、新疆ウイグル自治区の暴動について、チベット暴動に続き、外国勢力の影響をあらためて指摘し、暴動に対する対応を非難する各国に対し、「内政」に干渉しないよう要請した。さらに、治安部隊を暴動の鎮圧に大量投入し、新疆ウイグル自治区で1600人、チベット自治区では953人以上が拘束された。
 
 チベット問題専門家のリーベンソン氏は、「治安部隊の(初期段階での)比較的消極的な対応につづき、拘束と捜索という同様のシナリオが展開された」と指摘する。

■重要な戦略拠点

 新疆ウイグル自治区もチベット自治区も、ともに中国の重要な戦略拠点だ。

 新疆ウイグル自治区は中央アジア諸国など8か国と国境を接しており、広大な戦略的緩衝地帯となっている。同地区にはロプノール(Lop-Nor)の核実験場もある。一方、チベットは、インドと国境を接しており、世界最多の人口をもつ2大国家をつないでいる。

 新疆ウイグル自治区は、天然資源が豊富で、中国国内第2位の石油生産量があり、豊富な天然ガスを有するほか、大量のウランや石炭の埋蔵量を誇る。チベット自治区にも銅や亜鉛、金などの天然資源がある。両自治区には、中国国土に水を供給するのに欠かせない氷河もある。

 新疆ウイグル自治区は、重要拠点であることに加え、パキスタンやアフガニスタンなど情勢が不安定なイスラム地域とも国境を接しているという事実もある。「この点が明らかに、同地域からの悪影響を恐れる中国当局の懸念の元になっている」とベルギーのブリュッセル現代中国研究所(Brussels Institute of Contemporary China Studies)の研究者ティエリー・ケルナー(Thierry Kellner)氏は話す。

 両自治区の間で明らかに違った点は、ラサでは外国の報道陣にほぼ全面的に自治区への立ち入りが禁止されたのに対し、ウルムチでは立ち入り許可が出たことだ。(c)AFP/Pascale Trouillaud