【1月19日 AFP】現在の米国が直面する試練の克服を目指すバラク・オバマ(Barack Obama)次期米大統領の就任公式行事が18日に始まる。20日の就任式は奴隷解放を宣言したエーブラハム・リンカーン(Abraham Lincoln)大統領の精神が会場を満たすことだろう。

 第44代米国大統領に就任するオバマ氏は、リンカーンという歴史上傑出した大統領から大胆に着想を得て、宣誓式で使用する聖書から、式典後の祝賀昼食会でのメニューまで、リンカーンにまつわるさまざまな演出を用意した。

「オバマ氏は自分がリンカーンと比較されることから逃げてこなかった。このことが、特に政治にあまり関心が高くない層の米国人に、とても高い期待を抱かせている」とプリンストン大学(Princeton University)歴史学教授のジュリアン・ゼリザー(Julian Zelizer)氏は分析する。

「(リンカーンを引き合いに出す)彼の目標は3つあると思う。第1に自分を偉大なリーダーと結びつけること。第2に、人種差別の過去を克服しつつある国という、より大きな物語の中に自分を位置づけること。第3に困難な時代における分裂を癒やすことのできる指導者だと自らを演出することだ」(ゼリザー氏)

 今年はリンカーン生誕200年にあたる。痩身(そうしん)でイリノイ(Illinois)州で弁護士の経験があるという点でもリンカーンに似ているオバマ氏は、リンカーンと同じく政治的経験が少ないという批判に打ち勝って大統領選に勝利し、就任直後に南北戦争が始まったリンカーンと同じく国家的危機の時代に大統領に就任する。

 オバマ氏はこれまでの著書や演説で、リンカーンを自分の政治的英雄だと表現している。オバマ氏の米国初の黒人大統領への道はリンカーンも務めたイリノイ州議員から始まった。

■「ゲティスバーグ演説」の引用に注目

 就任演説でオバマ氏は、リンカーンの不朽の名演説「ゲティスバーグ演説(Gettysburg Address)」から引用する予定だ。経済が深い危機的状況にあり、米軍が2つの戦場で戦っている現状では、大統領としての手腕が未知数のオバマ氏にとってレトリックが過ぎると受け取られるリスクもある。しかし、オバマ氏自身はリンカーンと比較されることから逃げようとしない。

 ABCテレビのインタビューで、オバマ氏は「リンカーンはとてもかなわない才能の持ち主だ」と述べ、特に2期目の就任演説の力強さには畏怖さえ感じると語った。それでもオバマ氏は自分の就任演説でも米国民に、犠牲の精神のもとに結束して現在の課題を克服し、「世界の灯台」として米国を再建しようと訴えるつもりだと述べた。

 リンカーンへの畏怖を感じながらかどうかは分からないが、オバマ氏は17日、リンカーンの就任式までの足取りをなぞり、フィラデルフィア(Philadelphia)から列車でワシントン(Washington D.C.)へ出発、途中ボルティモア(Baltimore)に立ち寄った。

 ワシントン到着後は、18日夜、リンカーン記念堂(Lincoln Memorial)で一連の公式祝賀行事が始まる。この記念館で20日には、リンカーンが宣誓に使った同じ聖書を用いてオバマ氏は宣誓する。

 さらに就任式後の祝賀昼食会のメニューは、シーフードシチュー、ジビエ(野生の動物の肉)料理、根菜料理、アップルケーキとリンカーンの祝賀会を再現し、リンカーン夫人が夫の任期開始にあたって選んだ陶磁器のレプリカで給仕される。

 しかし、ワシントンにあるリンカーンと非常に関係の深い場所は、オバマ氏の祝賀行事の中には見当たらない。第16代大統領が暗殺されたフォード劇場(Ford's Theatre)は改修のため閉鎖されている。(c)AFP/Jitendra Joshi