【11月1日 AFP】米民主党の大統領候補バラク・オバマ(Barack Obama)上院議員は、今や世界中で熱狂的な人気を集めている。

 英国放送協会(BBC)が世界22か国、2500人を対象に行った調査では、選挙権があればオバマ氏に投票すると回答したのは全体の42%、マケイン氏はわずか12%だった。特に欧州でオバマ氏の人気は高い。

■人気の秘密は「幻想」?

 しかし、オバマ氏の世界的人気は、同氏の政策を人びとがよく理解していないからだと指摘する専門家もいる。

 米ニューヨーク(New York)のニュースクール大学(New School University)講師、マックス・ウォルフ(Max Wolff)氏は、オバマ氏の海外でのイメージと実際の政策方針には大きな隔たりがあると指摘する。

 米国と欧州でオバマ氏は変革を起こす人物だという認識が広がっているが、ウォルフ氏は、経済と外交という2大重要分野で大胆な政策転換は望めないと言う。

 たとえば、オバマ氏の外交政策ブレーンには、イラク戦争の提案者の1人と言われることもある副大統領候補のジョー・バイデン(Joe Biden)上院議員や、ジミー・カーター(Jimmy Carter)政権時代の元国家安全保障担当大統領補佐官でタカ派として知られる、ズビグニュー・ブレジンスキー(Zbigniew Brzezinski)氏がそろっている。

 ウォルフ氏は、ジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)大統領は「米国の最も悪い面」を体現する存在として、逆にオバマ氏は「米国のすべての善い面」を体現する存在として欧州の人々の眼に映っているが、そのいずれも、現実とまったく無関係ではないものの、基本的には幻想だと指摘する。

■あくまで米国の大統領

 米国の有力シンクタンク、ブルッキングス研究所(Brookings Institution)のフランス人歴史学者ジュリアン・ヴェッス(Julien Vaisse)氏は、オバマ氏の政治、経済、社会政策は米国人の視点で見なければならないと語る。同氏によると、民主党は政策面で共和党よりずっと欧州に近いものの、健康保険の対象拡大を掲げるオバマ氏の公約は、欧州で採用されている国民皆保険制度に遠く及ばないものだ。

 また、欧州に存在しない死刑制度について、オバマ氏はイリノイ(Illinois)州議時代に死刑を求められた被告を保護する制度を導入しているが、死刑廃止論者ではないという。銃の所持を許可する法律についても、オバマ氏は抜本的改革を提案していない。

 ヴェッス氏によると、多くの政策課題に対するオバマ氏のあいまいさが選挙戦で奏効しているという。つまり、オバマ氏が与える柔軟なイメージによって、人びとはそれぞれのアメリカンドリームを同氏に投影できるのだという。「オバマ氏が黒人だという事実も大きな役割を果たしている。彼は米国の肯定的側面なのだ」(c)AFP/Francoise Kadri