自民総裁選への金融危機影響、麻生氏に有利か
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【9月21日 AFP】世界的な金融不安に見舞われたなか、自民党(Liberal Democratic Party、LDP)は22日に総裁選を行う。この金融不安は総裁選で最有力候補と目される保守派の麻生太郎(Taro Aso)幹事長(68)にとって有利に働き、対抗候補に不利との見方が識者の間では強い。
自民党は今回の総裁選で、低い支持率に悩んだ福田康夫(Yasuo Fukuda)首相の後継者を選出する。福田首相は世界2位の経済大国日本が世界的な景気後退でぐらつくなか辞意を表明した。米証券大手リーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)の経営破たんと、それに続く危機に対する米金融当局の大規模な緊急救済措置により、史上まれに見る混乱に世界の市場がもまれた1週間の後、自民党は次期総裁を選ぶ。
■世界金融ショックで麻生氏に追い風
前週20日に68歳の誕生日を迎え、率直な物言いで知られる元外相の麻生幹事長は、厳しい経済環境にあえぐ地方に税金を投入し、経済を活性化させるという旧来の自民党路線への回帰を公約している。改革を推進した小泉純一郎(Junichiro Koizumi)元首相は、経済大国中最も多額とされる財政赤字の削減を目指し財政引き締めを公約したが、麻生氏はこの方針をほごにすることさえ示唆した。
慶應義塾大学(Keio University)の小林良彰(Yoshiaki Kobayashi)教授(政治学)は、輸出企業の収益の減少や雇用削減など、経済に対する人々の不安が高まっている現在の経済情勢は、良かれ悪しかれ麻生氏にとって明らかに有利だとみる。逆に女性初の首相を狙う小池百合子(Yuriko Koike) 元防衛相のように、小泉政権の緊縮財政政策の踏襲を掲げる候補にとっては、今回の金融危機は逆風になるという。
米国に端を発した金融市場危機は世界に衝撃を与えた。自民党総裁候補中最も厳しい財政政策を掲げ、これまで増税を強く主張してきた与謝野馨(Kaoru Yosano)経済財政担当相でさえ、「(増税は)2、3年内には必要だが、今はその時期ではない」と態度を軟化させた。
与謝野氏は多くのエコノミスト同様、財政赤字の削減が政府の緊急課題だとしている。現在政府が抱える財政赤字は、90年代初頭のバブル経済崩壊後、景気刺激策として支出された際から持ち越されたものだ。今年の第2四半期、米経済の減速による輸出の低迷や、賃金の伸び悩みから続く国内個人消費の低迷により日本経済は再び収縮した。
第一生命経済研究所主席エコノミストの熊野英生(Hideo Kumano)氏は現在、景気刺激策がかつてないほど求められているが、財政支出の観点からも金融政策の観点からも日本にはほとんど打つ手がないと語る。日銀は政策金利を経済国中最低の0.5%に据え置いたが、これは引き下げる余地がないことを示しているという。熊野氏は、鍵となるのは財源の再分配ではなく、日本の産業界の成長戦略だと指摘するが、麻生氏が掲げているのは、裕福な都市部から地方への財源の再分配のように見える。
■与野党間、総選挙では自民に有利か
1955年以来、10か月を除き政権を支配してきた自民党にとって、地方の有権者は重要な支持基盤だ。次期首相は就任当初の高い支持率を生かし野党の勢いをそぐため、近日中に総選挙を実施するとの予想が大半だ。
最大野党・民主党(Democratic Party of Japan、DPJ)が昨年、参院選で勝利し過半数を制した要因の一部には、小泉改革で痛みを押し付けられたのは地方の有権者だと訴え、地方の雇用安定と社会保障拡充を約束したことがある。しかし、今回の世界金融危機では、実績のない野党に政権運営を託すことを有権者がためらうため、全体としては自民党への支持につながるだろうと前述の小林教授はいう。
そして、こうした政治情勢のなかでは、どんなに巨額でも財政赤字の処理は最優先課題にはなりえないと、情報政治論を専門とする名古屋外国語大学の高瀬淳一(Junichi Takase)教授は述べる。同教授は、政治家たちは解散総選挙となることを懸念していたが、今は明日よりも今日のことに関心を寄せがちな有権者の気を引こうと、関心が財政出動に傾いていると指摘した。(c)AFP/Kyoko Hasegawa
自民党は今回の総裁選で、低い支持率に悩んだ福田康夫(Yasuo Fukuda)首相の後継者を選出する。福田首相は世界2位の経済大国日本が世界的な景気後退でぐらつくなか辞意を表明した。米証券大手リーマン・ブラザーズ(Lehman Brothers)の経営破たんと、それに続く危機に対する米金融当局の大規模な緊急救済措置により、史上まれに見る混乱に世界の市場がもまれた1週間の後、自民党は次期総裁を選ぶ。
■世界金融ショックで麻生氏に追い風
前週20日に68歳の誕生日を迎え、率直な物言いで知られる元外相の麻生幹事長は、厳しい経済環境にあえぐ地方に税金を投入し、経済を活性化させるという旧来の自民党路線への回帰を公約している。改革を推進した小泉純一郎(Junichiro Koizumi)元首相は、経済大国中最も多額とされる財政赤字の削減を目指し財政引き締めを公約したが、麻生氏はこの方針をほごにすることさえ示唆した。
慶應義塾大学(Keio University)の小林良彰(Yoshiaki Kobayashi)教授(政治学)は、輸出企業の収益の減少や雇用削減など、経済に対する人々の不安が高まっている現在の経済情勢は、良かれ悪しかれ麻生氏にとって明らかに有利だとみる。逆に女性初の首相を狙う小池百合子(Yuriko Koike) 元防衛相のように、小泉政権の緊縮財政政策の踏襲を掲げる候補にとっては、今回の金融危機は逆風になるという。
米国に端を発した金融市場危機は世界に衝撃を与えた。自民党総裁候補中最も厳しい財政政策を掲げ、これまで増税を強く主張してきた与謝野馨(Kaoru Yosano)経済財政担当相でさえ、「(増税は)2、3年内には必要だが、今はその時期ではない」と態度を軟化させた。
与謝野氏は多くのエコノミスト同様、財政赤字の削減が政府の緊急課題だとしている。現在政府が抱える財政赤字は、90年代初頭のバブル経済崩壊後、景気刺激策として支出された際から持ち越されたものだ。今年の第2四半期、米経済の減速による輸出の低迷や、賃金の伸び悩みから続く国内個人消費の低迷により日本経済は再び収縮した。
第一生命経済研究所主席エコノミストの熊野英生(Hideo Kumano)氏は現在、景気刺激策がかつてないほど求められているが、財政支出の観点からも金融政策の観点からも日本にはほとんど打つ手がないと語る。日銀は政策金利を経済国中最低の0.5%に据え置いたが、これは引き下げる余地がないことを示しているという。熊野氏は、鍵となるのは財源の再分配ではなく、日本の産業界の成長戦略だと指摘するが、麻生氏が掲げているのは、裕福な都市部から地方への財源の再分配のように見える。
■与野党間、総選挙では自民に有利か
1955年以来、10か月を除き政権を支配してきた自民党にとって、地方の有権者は重要な支持基盤だ。次期首相は就任当初の高い支持率を生かし野党の勢いをそぐため、近日中に総選挙を実施するとの予想が大半だ。
最大野党・民主党(Democratic Party of Japan、DPJ)が昨年、参院選で勝利し過半数を制した要因の一部には、小泉改革で痛みを押し付けられたのは地方の有権者だと訴え、地方の雇用安定と社会保障拡充を約束したことがある。しかし、今回の世界金融危機では、実績のない野党に政権運営を託すことを有権者がためらうため、全体としては自民党への支持につながるだろうと前述の小林教授はいう。
そして、こうした政治情勢のなかでは、どんなに巨額でも財政赤字の処理は最優先課題にはなりえないと、情報政治論を専門とする名古屋外国語大学の高瀬淳一(Junichi Takase)教授は述べる。同教授は、政治家たちは解散総選挙となることを懸念していたが、今は明日よりも今日のことに関心を寄せがちな有権者の気を引こうと、関心が財政出動に傾いていると指摘した。(c)AFP/Kyoko Hasegawa