【8月13日 AFP】グルジア軍が前週、同国からの独立を目指す南オセチア(South Ossetia)州に進攻した際、報復を誓ったのはロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)首相だった。

 一方、ロシアが12日、グルジアに対する軍事作戦の終了を決定した際に登場し、欧米諸国に「良い知らせ」を伝えたのは、プーチン首相が自ら後任に選んだ、物腰の柔らかな「上司」、ドミトリー・メドべージェフ(Dmitry Medvedev)大統領だった。

 専門家らは、ロシアの「ねじれ」双頭体制では、プーチン首相が「悪い警察官」を務め、グルジアに対する軍事作戦を先導し、欧米諸国を「口撃」したとみている。メドべージェフ大統領は首相の方針をおずおずと繰り返すだけで、すでに限定的だった大統領の権威は、徐々に減退しているという。

■軍事衝突でプーチン首相の権威強まる

 モスクワ(Moscow)のシンクタンク、パノラマ(Panorama)のVladimir Pribilovsky氏によると、グルジアとの交戦開始から数日間は、両者の「タフさ」は均衡していたが、メドべージェフ大統領はついに、少年のように未熟なイメージを払しょくすることができなかったという。

  Pribilovsky氏は、「タフガイ」は「プーチン氏にとって完全に自然なもの。メドべージェフ氏は『善良な警察官』を演じることに慣れてしまっている。今回の軍事衝突でプーチン氏の権威が強まった」と指摘する。

 グルジアによる南オセチア自治州への攻撃で、最初に声明を発表したのはプーチン首相の方だった。北京五輪訪問中に時間を割き、グルジアの進攻に対する「報復的措置」を呼び掛けた。

 プーチン首相はさらに、事態を掌握するため南オセチア自治州との国境に駆けつけた。「兵士らと握手し、難民と面会し、世界に対してロシアの今後の行動を示した。ロシアの有権者の目には彼こそが行動する人物に見えただろう」と、独立系アナリストDmitry Oreshkin氏は話す。

■「大統領が実権掌握」、世論調査でわずか9%

 一方、メドべージェフ大統領は、モスクワの大統領官邸で「人道的危機はよいことではないとぎこちなく宣言した」とOreshkin氏は言う。

 また、専門家らは、気弱な名目上の首長という役割が、メドべージェフ大統領の基盤強化を妨げていると指摘する。

 世論調査機関「レバダ・センター(Levada Center)」が前月発表した調査結果では、大統領が実権を握っていると答えたのはわずか9%にすぎず、今回の軍事衝突の前でさえ有権者は大統領を特に重要視していなかったことを浮き彫りにしていた。

 モスクワに拠点を置く米資本のシンクタンク、カーネギー・モスクワ・センター(Carnegie Moscow Center)のMaria Lipman氏は「これ以前に幻想を抱いている人がいたとしても、今回の危機で誰が統括しているのかが明白になった」と話す。

■プーチン首相の言動がュースの見出し飾る

「プーチン首相は決定的な権限を持つ人物として振る舞った。ロシアのグルジア介入の法的根拠を国民に説明した。『ジェノサイド(民族大量虐殺)』の言葉を最初に用いたのもプーチン首相で、その後メドべージェフ大統領も同じ言葉を繰り返した」とし、「プーチン首相が先に公式声明を行ったということが特に重要だ。彼が最初にニュースで取り上げられた」(Lipman氏)

 中国からモスクワに戻ったプーチン首相は、肩書きでは上司に当たるメドべージェフ大統領に向かい、グルジア軍によるオセチア住民へのジェノサイド行為について検察当局に調査を要求するよう指示し、大統領は弱々しく合意した。この模様はテレビ中継された。

 ロシアが南オセチアを越えて攻撃を展開したことで欧米諸国が動揺するなか、プーチン首相は11日、反欧米的表現をエスカレートさせ、ニュースの見出しを飾った。

 プーチン首相は、特筆すべきは米政治家の皮肉ではなく「皮肉の規模だ」と述べ、米国がグルジアの後方支援を行ったとして非難。さらにグルジアのミハイル・サーカシビリ(Mikheil Saakashvili)大統領の行動を、独裁者だったイラクの故サダム・フセイン(Saddam Hussein)元大統領に例えた。

 一方、フランスのニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)大統領が和平案へのロシアの合意を取り付けるためモスクワを訪れた際、舞台の中央にいたのはメドべージェフ大統領で、ロシアには平和的解決の準備があると明言した。プーチン首相の姿はどこにも見られなかった。(c)AFP/Conor Humphries