【6月10日 AFP】オバマ氏が米国大統領になった場合、金正日(Kim Jong-Il)北朝鮮総書記と会談するのではないか? 中国に対し貿易制裁を発動するのではないか? イスラム武装勢力一掃のためにパキスタンに米軍を派遣するのではないか?

 民主党の大統領候補指名が確定したバラク・オバマ(Barack Obama)上院議員(46)のアジア政策について、浮上する疑問が後を絶たない。オバマ氏は11月の本選で勝利し自らが大統領になった場合には、「敵国」の指導者との交渉に取り組む一方で、自由貿易政策や「テロとの戦い」の戦略などを見直すと公約している。

■他文化に対する配慮に期待する声

 オバマ氏の政策に対する根強い懸念も残る中、共和党の指名が確定しているジョン・マケイン(John McCain)上院議員にオバマ氏が勝利すれば、発展中のアジア地域との関係において新時代が到来することは間違いない、と指摘する専門家もいる。

「いまだ白人が圧倒的に多い米国で、アフリカ系アメリカ人を大統領に選ぶという行為自体が単純に、アジアやほかの世界に対し、過去8年間とはまったく異なる米国になるというメッセージを送ると思う」と、ワシントンD.C.(Washington D.C.)のウッドロー・ウィルソン国際センター(Woodrow Wilson International Center for Scholars)のアジア・プログラムを率いるロバート・ハサウェイ(Robert Hathaway)氏は語る。「バラク・オバマならば選ばれたその日から、驚くほどの違いがあるだろう。他者や異なる考え方、他文化に対する今までになかった配慮が期待できる」

■中国・パキスタンには強硬路線、北朝鮮には歩み寄りか

 しかし、オバマ氏が約束している「真の変化」はアジア地域に緊張ももたらしうる。

 例えば、オバマ氏はアジアの大国・中国に対し強硬的な政策を進めるとしており、米国の対中貿易赤字が膨張する中、中国が通貨交換レートの切り上げを行わなかった場合には前例のない制裁措置も辞さないとしている。議会でもこれまで対中制裁法案を支持し、5月にも他国によるレート操作は米通商法の補助金に相当すると規定する法案を共同提案したばかり。この法案は、中国からの輸入に相殺関税を課す道を開くものだ。

 一方で、ブッシュ政権が中国に多大に頼ってきた北朝鮮の核問題に、オバマ氏がどう取り組むかはまだ不透明だ。オバマ氏は大統領になった場合、就任1年目に高官レベルの協議を十分積み重ねた上で、北朝鮮の金総書記といった指導者たちとも「無条件で会うつもりだ」と公言している。

 シンクタンク、米外交問題評議会(US Council on Foreign Relations)がアナリストたちに対し行った調査では、オバマ氏の外交政策顧問は外交方針において民主党主流派から独立した方針をとる傾向があると考える回答が多かった。
 
 パキスタンについては強硬姿勢だ。パキスタン領内に潜伏する国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)の掃討作戦については、アルカイダが米国に対する攻撃を計画しているとの信頼度の高い情報を得た場合、パキスタン政府の許可の有無にかかわらず掃討すると述べている。

 オバマ氏は2004年に上院議員選に出馬した際にも、当時軍参謀長を兼任していたペルペズ・ムシャラフ(Pervez Musharraf)大統領がクーデターで失脚させられた場合には、武力行使によってパキスタンの保有する核兵器を破壊することも検討しうると述べた。
 
■米印核協定、米韓FTAには消極的

 アジア地域の同盟国である日本、韓国、オーストラリアなどとは引き続き強い関係を維持すると誓約している。また地域の安定化と繁栄のために、東アジア諸国のインフラ基盤構築に尽力したいとも述べている。

 しかし、米国と並ぶ大国インドとの戦略的パートナーシップのハイライトである2国間核協定の行方は、法案を消極的にしか支持しなかったオバマ氏が大統領になった場合、見通しが不明だ。オバマ氏は、インドに売却する核燃料の量に制限を課し、実質協定の効力を減ずるような修正条項を法案に付加することを求めた。

 米国が主要輸出国であるアジア各国にとっては、オバマ氏の貿易政策に関しても懸念が生じる。過去15年間に米国が結んだ貿易協定の中で最大であり、日本、マレーシア、タイなどとの協定の先駆けとなるだろう韓国との自由貿易協定(FTA)にオバマ氏は反対している。(c)AFP/P. Parameswaran