<08米大統領選挙>クリントン陣営の戦略ミスはどこに?
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【5月9日 AFP】米大統領選挙の民主党指名候補争いで、政界での豊富な経験を強みにしてきたヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)上院議員。大票田での争いを終えた今、彼女の「経験」はライバルのバラク・オバマ(Barack Obama)上院議員が掲げる「希望と変革」の前に屈服しかけているようだ。
このカギとなるメッセージ以外にも、現在、オバマ候補がクリントン候補に勝る点は数多くある。クリントン氏との差を徐々に広げつつあるほか、失言などを発端とする危機も無事に乗り切り、巧みな代議員獲得戦略を駆使し、さらに驚異的な資金調達活動を繰り広げている。
選挙戦におけるクリントン氏の「敗戦処理」はすでに始まっている。6日、ノースカロライナ州(North Carolina)予備選でオバマ氏に大敗を喫したのに対し、インディアナ州(Indiana)で辛くも勝利を挙げるにとどまったクリントン氏に対し、撤退要求の声はいっそう高まりをみせている。
イラク戦争での失敗、ハリケーン・カトリーナ(Hurricane Katrina)に対する対応の遅さ、景気後退への懸念といったさまざまな問題に怒りを抱えた国民は、クリントン候補の政界での豊富な「経験」に期待するはず――選挙戦を開始した当初、クリントン陣営はそう判断した。
一方、今や民主党の指名獲得に近づきつつあるオバマ氏は、「変革」をスローガンに、若い有権者の心をつかみ、アフリカ系米国人の票の大部分を獲得し、白人富裕層にもアピールしてきた。
■「経験」があだに?
クリントン氏が「経験」を選挙戦のスローガンとして選択したのは、ある意味、当然とも言えるだろう。かつてホワイトハウス(White House)を「わが家」と呼んだ人物が、反乱のアウトサイダーとして選挙戦を戦えるわけがない。だがその選択は「ファーストレディーとしての経験は大統領を務めることと関係があるのか?」との疑問を呼ぶ結果になった。
オバマ氏はライバルの弱点を突いて、クリントン氏がかつてイラク戦争開戦に賛成票を投じた事実を引き合いに出し、経験や判断力は果たしてそれほど重要な問題だろうかと疑問を呈した。
「経験」のスローガンはまた、過去を振り返るものとも考えられるため、「選挙とは過去ではなく未来を見据えるもの」というクリントン家のモットーに反するとも言える。
さらに、「経験」以外のスローガンをしばしば掲げることから、クリントン陣営内の不安定さもうかがえる。対するオバマ氏は、「希望」「変革」の2つを一貫して掲げつづけてきた。
決して負けを認めない不屈の戦士たる現在のクリントン像を作り上げたときには、すでにそれを選挙戦の決定打とするには手遅れだったのだ。
組織力という観点でも、クリントン陣営はオバマ陣営に明らかに劣っている。民主党にとってなじみの浅い州で、もっぱら党員集会で勝利を収めることで代議員の数を増やしてきたオバマ氏に対し、クリントン氏は大票田での予備選で一気に票を集める手法を取ってきた。
■制度を生かしたオバマ陣営
プリンストン大学(Princeton University)のジュリアン・ゼリザー(Julian Zelizer)教授(歴史学)は「オバマ氏の選挙戦は戦略面で優れている」と指摘する。「党員集会と代議員の比例配分という2つの制度をよく理解している。この制度では投票で負けても代議員数数では勝つ、という現象が起こり得る」
クリントン陣営は資金調達でもライバルに水を開けられている。オバマ氏は草の根活動により、100ドル以下の献金を1人の支援者から繰り返し受けることで、莫大(ばくだい)な資金を集めてきた。
これまでにオバマ氏に献金した支援者は150万人以上。多くはネット献金だ。期待どおりに同氏が指名候補となった暁には、彼らは共和党との戦いにおいても、ほとんど無尽蔵の資金源となるだろう。
さらにクリントン陣営は、「ヒラリー政権でビル・クリントン(Bill Clinton)元大統領はどのような役割を果たすのか?」との問いにも、選挙戦当初から適切な答えを出すことができずにいる。
陣営にとってクリントン元大統領の存在は、お荷物でもあり財産でもある。元大統領が、国民の激しい抗議を受けたかと思えば、巧みな演説でヒーローと呼ばれることもあるからだ。
クリントン氏は指名候補争いに負けるかもしれない。だが戦いを通じて、注目に値する成功を収めたのも事実だ。
評価が分かれるとはいえ、クリントン氏は女性政治家として米国史にその名を残したのは間違いない。この選挙戦でこれまでに数百万の票を獲得した。そして、女性有権者ならびにブルーカラーの民主党員ときずなを結んだ――経済的な困難との戦いに挑む彼らは、選挙戦での負けを認めないクリントン氏に自らを投影しているのかもしれない。(c)AFP
このカギとなるメッセージ以外にも、現在、オバマ候補がクリントン候補に勝る点は数多くある。クリントン氏との差を徐々に広げつつあるほか、失言などを発端とする危機も無事に乗り切り、巧みな代議員獲得戦略を駆使し、さらに驚異的な資金調達活動を繰り広げている。
選挙戦におけるクリントン氏の「敗戦処理」はすでに始まっている。6日、ノースカロライナ州(North Carolina)予備選でオバマ氏に大敗を喫したのに対し、インディアナ州(Indiana)で辛くも勝利を挙げるにとどまったクリントン氏に対し、撤退要求の声はいっそう高まりをみせている。
イラク戦争での失敗、ハリケーン・カトリーナ(Hurricane Katrina)に対する対応の遅さ、景気後退への懸念といったさまざまな問題に怒りを抱えた国民は、クリントン候補の政界での豊富な「経験」に期待するはず――選挙戦を開始した当初、クリントン陣営はそう判断した。
一方、今や民主党の指名獲得に近づきつつあるオバマ氏は、「変革」をスローガンに、若い有権者の心をつかみ、アフリカ系米国人の票の大部分を獲得し、白人富裕層にもアピールしてきた。
■「経験」があだに?
クリントン氏が「経験」を選挙戦のスローガンとして選択したのは、ある意味、当然とも言えるだろう。かつてホワイトハウス(White House)を「わが家」と呼んだ人物が、反乱のアウトサイダーとして選挙戦を戦えるわけがない。だがその選択は「ファーストレディーとしての経験は大統領を務めることと関係があるのか?」との疑問を呼ぶ結果になった。
オバマ氏はライバルの弱点を突いて、クリントン氏がかつてイラク戦争開戦に賛成票を投じた事実を引き合いに出し、経験や判断力は果たしてそれほど重要な問題だろうかと疑問を呈した。
「経験」のスローガンはまた、過去を振り返るものとも考えられるため、「選挙とは過去ではなく未来を見据えるもの」というクリントン家のモットーに反するとも言える。
さらに、「経験」以外のスローガンをしばしば掲げることから、クリントン陣営内の不安定さもうかがえる。対するオバマ氏は、「希望」「変革」の2つを一貫して掲げつづけてきた。
決して負けを認めない不屈の戦士たる現在のクリントン像を作り上げたときには、すでにそれを選挙戦の決定打とするには手遅れだったのだ。
組織力という観点でも、クリントン陣営はオバマ陣営に明らかに劣っている。民主党にとってなじみの浅い州で、もっぱら党員集会で勝利を収めることで代議員の数を増やしてきたオバマ氏に対し、クリントン氏は大票田での予備選で一気に票を集める手法を取ってきた。
■制度を生かしたオバマ陣営
プリンストン大学(Princeton University)のジュリアン・ゼリザー(Julian Zelizer)教授(歴史学)は「オバマ氏の選挙戦は戦略面で優れている」と指摘する。「党員集会と代議員の比例配分という2つの制度をよく理解している。この制度では投票で負けても代議員数数では勝つ、という現象が起こり得る」
クリントン陣営は資金調達でもライバルに水を開けられている。オバマ氏は草の根活動により、100ドル以下の献金を1人の支援者から繰り返し受けることで、莫大(ばくだい)な資金を集めてきた。
これまでにオバマ氏に献金した支援者は150万人以上。多くはネット献金だ。期待どおりに同氏が指名候補となった暁には、彼らは共和党との戦いにおいても、ほとんど無尽蔵の資金源となるだろう。
さらにクリントン陣営は、「ヒラリー政権でビル・クリントン(Bill Clinton)元大統領はどのような役割を果たすのか?」との問いにも、選挙戦当初から適切な答えを出すことができずにいる。
陣営にとってクリントン元大統領の存在は、お荷物でもあり財産でもある。元大統領が、国民の激しい抗議を受けたかと思えば、巧みな演説でヒーローと呼ばれることもあるからだ。
クリントン氏は指名候補争いに負けるかもしれない。だが戦いを通じて、注目に値する成功を収めたのも事実だ。
評価が分かれるとはいえ、クリントン氏は女性政治家として米国史にその名を残したのは間違いない。この選挙戦でこれまでに数百万の票を獲得した。そして、女性有権者ならびにブルーカラーの民主党員ときずなを結んだ――経済的な困難との戦いに挑む彼らは、選挙戦での負けを認めないクリントン氏に自らを投影しているのかもしれない。(c)AFP