【4月9日 AFP】制憲議会選(定数601)の投票を10日に控えたネパールでは各地で衝突や暴力的な事件が発生し、緊張が高まっている。専門家の間には選挙後の事態を懸念する声もある。

 今回の選挙には各国から選挙監視団数百人が派遣され、ネパール史上最も厳しい監視下での投票となる。4日には政府が酒類販売禁止令を出すなど厳しい警戒態勢がとられていたが、西部では8日夜、ネパール共産党毛沢東主義派(毛派)と別の政党の支持者が衝突、毛派メンバー6人が警察に射殺された。同日西部の別の場所では毛派の候補者が暗殺される事件が発生し、9日この事件への抗議行動が建物や車を破壊する騒ぎに発展、参加していた毛派支持者1人が警官に射殺された。首都カトマンズ(Kathmandu)や南部では小規模の爆発事件が頻発している。

 毛派の10年におよぶ反政府武力闘争を終結に導いた和平プロセスの最後を飾る今回の選挙で、240年間続いた君主制は廃止され、不評を買っているギャネンドラ国王(King Gyanendra)は廃位される見通し。約10年間の武力闘争で1万3000人が犠牲になったとされる。米国は毛派をテロ組織とみなしている。

 ジャングルや山岳部にいた戦闘員を国連(UN)が監視するキャンプに移動させ、暫定政府にも参加した毛派だが、有権者に投票を強要していると非難されている。一方の国王や軍の国王派も、選挙を妨害するため民族対立をあおったり、爆発事件を起こしたり、さらにはクーデターまで画策していると非難されている。

 ギャネンドラ国王は2001年6月、兄である前国王を含む王族ら9人が当時の皇太子に射殺されたことを受けて即位した。新憲法で君主制は廃止される見通しだが、毛派と対立する主流派の政治家の中には、インドと中国という2つの大国に挟まれたネパールが中立性を保つためにも、象徴的にでも君主制を維持するべきだと考える勢力もある。

 選挙では主流派の中道・ネパール会議派(Nepali CongressNCP)と中道左派・統一共産党(Unified Marxist-LeninistUML)が多数を占める見通し。しかし単独で過半数を獲得する政党はないとみられ、ブリュッセル(Brussels)に本部を置くシンクタンク、国際危機グループ(International Crisis GroupICG)は、選挙後さらなる政情不安が予測されると警告する。

「闘争を繰り広げてきた毛派と国軍は、互いに政治的に譲歩する姿勢はなく、それぞれ勢力を維持しており、いつでも戦闘できる状態にある。このほかにもこの国には数多くの紛争の火種がある。選挙後は困難で危険な時期になるだろう。影響力のある落選者の行動が直後の動向を大きく左右するだろう。特に毛派など、選挙結果そのものを否定する勢力が出てくる可能性もある」

 専門家は、毛派が民主主義的な政治制度のうちにとどまる気になるほど十分な議席を得られるかが大きな焦点だとしている。

 毛派のナンバー2、バブラム・バッタライ(Baburam Bhattarai)氏は7日、AFPに対し「社会に革命的な変革をもたらそうとするわれわれの試みを阻止しようとするならば、われわれはそれに反抗しなければならない」と語っている。(c)AFP/Sam Taylor