パキスタン総選挙、大統領派敗北ならばテロとの戦いに利益
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【2月17日 AFP】ペルベズ・ムシャラフ(Pervez Musharraf)大統領率いるパキスタン与党にとって、18日に投開票が行われる下院選挙での勝利は見込めない状況となっているが、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)やアフガニスタン旧政権タリバン(Taliban)と戦う国際社会にとっては同大統領派の敗北は利益となる、と専門家らは予測分析している。
■ムシャラフ退陣ならば「テロとの戦い」に国民の支持
躍進が見込める野党パキスタン人民党(PPP)側はすでに、大統領派のパキスタン・イスラム教徒連盟クアイディアザム派(PML-Q)が勝利した場合には、大規模な抗議行動を起こすと明言している。PPPが議会の支配を握った場合、米国の「テロとの戦い」の主要な同盟相手であるムシャラフ大統領は弾劾される可能性もある。
ムシャラフ氏が兼任していた陸軍参謀長を辞任した時点で、ムシャラフ氏抜きでは核保有国パキスタンの安全保障が悪化するという懸念はなくなったと、西側の観測筋ではみている。
政治評論家でコラムニストのShafqat Mahmood氏は「ムシャラフ派に勝ち目はない」という。「しかし、ムシャラフ氏退陣によってテロとの戦いは影響されないだろうし、かえって強化されることさえありうる。選挙で選ばれる正当な政府ならば、ムシャラフ政権である限りはありえない『テロとの戦い』への国民の支持を獲得しうる」と語る。
ムシャラフ大統領は昨年11月に非常事態宣言を発令し、自身の大統領再就任に異議を唱える最高裁長官を解任した後、兼任していた陸軍参謀長を辞任した。
陸軍はムシャラフ氏にあからさまな反対を示したことはなかったが、権限を引き継いだアシュファク・キアニ(Ashfaq Kiyani)新参謀長(前副参謀長)は官職から軍関係者を引きあげ、政治に軍部を関与させたムシャラフ氏の政策を逆転させた。寡黙なチェーンスモーカーとして知られるキアニ参謀総長は、欧米政府関係者の間では広く評価されており、またアルカイダやタリバン武装勢力に対峙する作戦で、パキスタンが困難な役割を遂行するに当たり「無難な選択」とみられている。
「パキスタンの役割が後退することはほとんどありえない」と、シンガポールにある「政治暴力とテロリズム研究国際センター(International Center for Political Violence and Terrorism Research)」のテロリズム研究家ローハン・グナラトナ(Rohan Gunaratna)所長は語る。著書に『インサイド・アルカイダ:グローバル・ネットワーク・オブ・テラー(アルカイダの内側:テロのグローバルネットワーク)』などがある同所長は、「誰が政権を取っても、パキスタンの軍と情報機関はテロとの戦いにおいて主要な役割を果たすだろう」と予測する。「テロとの戦いに関するパキスタンの方針を立てたのはムシャラフ氏だが、彼が政権の座を降りてもこの戦いは続く。テロとの戦いは、この国が今日直面している最大の脅威だからだ」
■不透明な選挙後、与党勝利なら野党は抗議を予告
18日の下院・州議会選挙で、ムシャラフ大統領自身の政治的将来がすぐに変化することはない。しかし最近の複数の調査で、ムシャラフ氏の支持率は就任以来最低を示しており、今回の総選挙を大統領に対する「国民投票」とみなすことができるだろうと専門家らはいう。
大統領を支えるパキスタン・イスラム教徒連盟クアイディアザム派(PML-Q)は今回の選挙で、暗殺された故ベナジル・ブット(Benazir Bhutto)元首相が党首だった野党パキスタン人民党(PPP)に逆転されるばかりでなく、ナワズ・シャリフ(Nawaz Sharif)元首相率いるパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PLM-N)にも負けて第3党に転落するとの予測もある。
前週末16日、PPPの選挙集会で37人が犠牲となった自爆テロなどによる恐れから投票率が下がり、そこにパキスタンの封建的な政治システムの影響が重なれば、PML-Qが依然、政権維持ラインを越える可能性もなくはない。
しかし、「PML-Qが辛勝したとしても、ムシャラフ大統領の政権運営には困難が待っている」と米ジョンズホプキンス大学高等国際問題研究院(School of Advanced International Studies at Johns Hopkins Universityy)で教鞭をとる政治評論家ハサン・アスカリ(Hasan Askari)氏は語る。
「政府が選挙を不正操作したという認識が存在すれば、野党は抗議デモを展開し異議を申し立てるだろう。また、野党側が政権樹立に十分な議席を獲得すれば、ムシャラフ大統領の権限の制限に動くか、可能であれば大統領退陣の追求もありうる」という。
■敗北か連立か、いずれにせよムシャラフ氏の基盤弱体化
議会運営が混乱した場合、ムシャラフ氏の袖の中には切り札が残されている。大統領権限による議会解散だ。
しかし、故ブット元首相の夫で息子を支え、PPPの共同総裁に就任したアシフ・ザルダリ(Asif Ali Zardari)氏が、政権協力を働き掛けたムシャラフ大統領に歩み寄る可能性も憶測されている。
いずれにせよムシャラフ大統領は自身の座を維持するために、敵対する議会との妥協を迫られることになり、すでにゆるんでいる政権基盤の弱体化がいっそう進むと専門家はみる。
ラホール経営大学(Lahore's University of Management Sciences)のRasul Baksh Rais教授は「ひとつ非常に明確なことは、もしもムシャラフ大統領が政権を維持したとしても、周縁に追いやられることは間違いない。すぐにではなくても、徐々に国政の舞台から追放されるだろう」という。「ムシャラフ氏の座が国家元首としては存続しても、政策を支配することはなくなるだろう。治安部隊を指揮するのも彼ではなく、首相となるだろう」(c)AFP/Rana Jawad
■ムシャラフ退陣ならば「テロとの戦い」に国民の支持
躍進が見込める野党パキスタン人民党(PPP)側はすでに、大統領派のパキスタン・イスラム教徒連盟クアイディアザム派(PML-Q)が勝利した場合には、大規模な抗議行動を起こすと明言している。PPPが議会の支配を握った場合、米国の「テロとの戦い」の主要な同盟相手であるムシャラフ大統領は弾劾される可能性もある。
ムシャラフ氏が兼任していた陸軍参謀長を辞任した時点で、ムシャラフ氏抜きでは核保有国パキスタンの安全保障が悪化するという懸念はなくなったと、西側の観測筋ではみている。
政治評論家でコラムニストのShafqat Mahmood氏は「ムシャラフ派に勝ち目はない」という。「しかし、ムシャラフ氏退陣によってテロとの戦いは影響されないだろうし、かえって強化されることさえありうる。選挙で選ばれる正当な政府ならば、ムシャラフ政権である限りはありえない『テロとの戦い』への国民の支持を獲得しうる」と語る。
ムシャラフ大統領は昨年11月に非常事態宣言を発令し、自身の大統領再就任に異議を唱える最高裁長官を解任した後、兼任していた陸軍参謀長を辞任した。
陸軍はムシャラフ氏にあからさまな反対を示したことはなかったが、権限を引き継いだアシュファク・キアニ(Ashfaq Kiyani)新参謀長(前副参謀長)は官職から軍関係者を引きあげ、政治に軍部を関与させたムシャラフ氏の政策を逆転させた。寡黙なチェーンスモーカーとして知られるキアニ参謀総長は、欧米政府関係者の間では広く評価されており、またアルカイダやタリバン武装勢力に対峙する作戦で、パキスタンが困難な役割を遂行するに当たり「無難な選択」とみられている。
「パキスタンの役割が後退することはほとんどありえない」と、シンガポールにある「政治暴力とテロリズム研究国際センター(International Center for Political Violence and Terrorism Research)」のテロリズム研究家ローハン・グナラトナ(Rohan Gunaratna)所長は語る。著書に『インサイド・アルカイダ:グローバル・ネットワーク・オブ・テラー(アルカイダの内側:テロのグローバルネットワーク)』などがある同所長は、「誰が政権を取っても、パキスタンの軍と情報機関はテロとの戦いにおいて主要な役割を果たすだろう」と予測する。「テロとの戦いに関するパキスタンの方針を立てたのはムシャラフ氏だが、彼が政権の座を降りてもこの戦いは続く。テロとの戦いは、この国が今日直面している最大の脅威だからだ」
■不透明な選挙後、与党勝利なら野党は抗議を予告
18日の下院・州議会選挙で、ムシャラフ大統領自身の政治的将来がすぐに変化することはない。しかし最近の複数の調査で、ムシャラフ氏の支持率は就任以来最低を示しており、今回の総選挙を大統領に対する「国民投票」とみなすことができるだろうと専門家らはいう。
大統領を支えるパキスタン・イスラム教徒連盟クアイディアザム派(PML-Q)は今回の選挙で、暗殺された故ベナジル・ブット(Benazir Bhutto)元首相が党首だった野党パキスタン人民党(PPP)に逆転されるばかりでなく、ナワズ・シャリフ(Nawaz Sharif)元首相率いるパキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PLM-N)にも負けて第3党に転落するとの予測もある。
前週末16日、PPPの選挙集会で37人が犠牲となった自爆テロなどによる恐れから投票率が下がり、そこにパキスタンの封建的な政治システムの影響が重なれば、PML-Qが依然、政権維持ラインを越える可能性もなくはない。
しかし、「PML-Qが辛勝したとしても、ムシャラフ大統領の政権運営には困難が待っている」と米ジョンズホプキンス大学高等国際問題研究院(School of Advanced International Studies at Johns Hopkins Universityy)で教鞭をとる政治評論家ハサン・アスカリ(Hasan Askari)氏は語る。
「政府が選挙を不正操作したという認識が存在すれば、野党は抗議デモを展開し異議を申し立てるだろう。また、野党側が政権樹立に十分な議席を獲得すれば、ムシャラフ大統領の権限の制限に動くか、可能であれば大統領退陣の追求もありうる」という。
■敗北か連立か、いずれにせよムシャラフ氏の基盤弱体化
議会運営が混乱した場合、ムシャラフ氏の袖の中には切り札が残されている。大統領権限による議会解散だ。
しかし、故ブット元首相の夫で息子を支え、PPPの共同総裁に就任したアシフ・ザルダリ(Asif Ali Zardari)氏が、政権協力を働き掛けたムシャラフ大統領に歩み寄る可能性も憶測されている。
いずれにせよムシャラフ大統領は自身の座を維持するために、敵対する議会との妥協を迫られることになり、すでにゆるんでいる政権基盤の弱体化がいっそう進むと専門家はみる。
ラホール経営大学(Lahore's University of Management Sciences)のRasul Baksh Rais教授は「ひとつ非常に明確なことは、もしもムシャラフ大統領が政権を維持したとしても、周縁に追いやられることは間違いない。すぐにではなくても、徐々に国政の舞台から追放されるだろう」という。「ムシャラフ氏の座が国家元首としては存続しても、政策を支配することはなくなるだろう。治安部隊を指揮するのも彼ではなく、首相となるだろう」(c)AFP/Rana Jawad