【2月13日 AFP】オーストラリアのケビン・ラッド(Kevin Rudd)首相が13日、先住民アボリジニに対する過去の差別的政策について議会で謝罪したことを受け、同国内で即日、賛否両論が巻き起こった。

 同日ラッド首相は議会での約30分にわたる「歴史的演説」で、220年前に初の白人入植者たちがシドニー・コーブ(Sydney Cove)に上陸して以来、アボリジニに対して重ね与えてきた不当や侮辱について語った。雄弁な演説の中でも最も注目されたのは「お詫びする(sorry)」という謝罪の言葉で、首相はこれを6回繰り返し、そのたびに議会傍聴席に集まったアボリジニなど約3000人は歓声や口笛、旗を振るなどして歓迎を表現した。

 パース(Perth)やシドニー、メルボルン(Melbourne)など国内の大都市では、屋外の巨大スクリーンで演説が生中継され、首相が謝罪するシーンが繰り返し映し出された。また各地の学校ではこの中継を見るための特別集会がもたれた。

■アボリジニにとって「ベルリンの壁の崩壊」

 首都キャンベラ(Canberra)の街頭では、市民とともに数千キロの遠方から足を運んだ多くのアボリジニたちがラッド首相の映像を見つめた。記念式典の花火の煙が立ち込め、謝罪の言葉が流れると、立ったまま頭をうなだれる者や泣き始める者もいた。また、先住民の力を示す方法で拳を突き上げたり、式典に参加できなかった親族の写真を抱えた者もいた。

 アボリジニの男性、Darryl Towneyさんは「わたしの人生で起こったことの中で、われわれの民にとって最も意義深いことだ。アボリジニにとってのベルリンの壁の崩壊だ」と語った。11月の総選挙で首相に就任した労働党のラッド氏が、議会での初の公務として和解の意思表示をしたことに敬意を表するとも述べた。「謝罪まで200年かかったのは遅すぎるが、それでもラッド首相のしたことはアボリジニにとって多くの意味がある」
 
 アボリジニの学生Andi Kirwinさんは、首相の「お詫び」という一言を聞いた時、これまで背負っていた重荷が下りた気がしたと話した。ジョン・ハワード(John Howard)前首相が拒否したこのたった一言に、大きな象徴的な意味があるという。Kirwinさんは「ものすごい力が湧き出てくるのを感じた。感情がわきあがってくる瞬間だった」と涙を拭いながら語った。「わたしたちに何が起こったのかを認める言葉。これまでのすべての“否定の年月”が終わったと思う」

■野党党首の「正当化」には怒りの声

 一方、群集からは謝罪に対する野党党首の反応に怒る声もあがった。

 議会では、自由党のブレンダン・ネルソン(Brendan Nelson)党首がラッド首相による謝罪動議を支持するとしながらも、政府の過去の政策には善意に基づいたものもあると述べ、アボリジニ・コミュニティーの一部にみられた児童に対する性的虐待発生率の高さなどを根拠に挙げた。

 キャンベラの街頭ではネルソン党首が語る様子がスクリーンに映し出されると、群集は画面に背を向け「恥を知れ」などと罵声を浴びせた。

 Kirwinさんは、ハワード前首相の後継として同党党首に就任したネルソン氏の発言について「なぜ彼はただ一言、ごめんなさいと言うことができないのか」と怒りをあらわにした。

 パースでは怒った集会の主催者がスクリーンの電源を引き抜き、スクリーンは何も映さなくなった。

■非先住民も圧倒的な「和解歓迎」

 キャンベラの街頭に集まった群集はアボリジニだけではなく、大半は「和解」に対する支持を示すために集まった白人系の市民だった。

「白人のオーストラリア人であるわたしにとって、今日は始まりの日。白人とアボリジニ・コミュニティーの架け橋を作るためにこれでわれわれは動き出せる」と同市に住む公務員、Annie Kentwellさん述べ、ラッド首相の謝罪は白人の間でも圧倒的な支持を得ていると語った。(c)AFP/Neil Sands