【10月18日 AFP】18日に8年間の亡命から帰国するベナジル・ブット(Benazir Bhutto)パキスタン元首相の支持層が集中するカラチ(Karachi)では、街のいたるところにブット元首相のポスターが張られ、歓迎ムードに沸いている。

  空港から中心部に向かう10キロの道路沿いの街灯には、ほぼすべてに元首相率いるパキスタン人民党(Pakistan People's PartyPPP)旗が飾られ、16日には支持者らが街頭でダンスを踊って帰国を祝った。

■700キロを自転車で来る支持者

 支持者の中には、カラチの北700キロのパンジャブ(Punjab)州の町から1週間かけて、自転車でやって来た男性もいた。

 自転車の全部にブット元首相の肖像を掲げPPPの旗を立てた35歳のこの男性は、「先週から自転車をこぎっぱなしだったが、疲れてはいないよ。ブット元首相を敬愛しているからね」と話した。

■ガソリンをかぶって当局に抗議する姿も

 もっと過激な方法で歓迎の意思を示す人もいる。40歳のある男性は市内の記者クラブ前で、ブット元首相の顔写真の印刷された鉢巻きをした4歳と6歳の2人の息子とともに頭からガソリンをかぶった。

 当局がブット元首相のポスターをはがす命令を出したことに対する抗議で、「わたしはブット元首相を敬愛している。当局が命令を撤回しなければ、息子たちと一緒に焼身自殺を図る」と主張した。集まった群衆が声援を送る中、息子たちは泣き、7歳と10歳の男性の娘たちは途方にくれた表情をしていた。

 結局、この焼身自殺パフォーマンスは実行されなかったが、パキスタンではブット元首相をめぐるこうした個人崇拝的な熱狂は珍しくない。

■ブット一家をめぐる個人崇拝、きっかけは父親の処刑

 始まりは、1979年に元首相の父親のズルフィカル・アリ・ブット(Zulfiqar Ali Bhutto)元大統領が、クーデターを起こしたジアウル・ハク(Zia-ul-Haq)陸軍参謀長(当時)によって処刑されたことだった。当時、少なくとも1人が焼身自殺を図り、その後もブット元首相が汚職の罪で訴追された2004年など、同様の自殺が報告されている。

 有力な土地所有者の家系にも関わらず、ブット一家とPPPは貧困層や封建的なパキスタン社会で抑圧されている人々の支持を集めてきた。

 PPPも、支持者の中に個人崇拝的な傾向を持つ人々がいることを否定しない。所属議員の1人は「南アジアの政治とはそういうものだ」と述べ、「個人崇拝を批判するのは容易だが、ブット元首相は父親の死後ずっと党を率いてきた。元首相が選挙で最も集票できることを、党員も皆わかっている」と強調した。(c)AFP/Danny Kemp