【8月14日 AFP】英国領インドから分離、自治領として独立してから14日で60年を迎える、世界第2のイスラム教国、パキスタン。首都イスラマバード(Islamabad)の主だった建築物が鮮やかな照明で照らし出される一方で、政治的にも宗教的にも混乱に包まれている同国市民の表情は苦悩と痛ましさにあふれている。祝典にも華々しさはなく、ここ数週間続いた武力抗争の影響で、治安部隊が警戒に当たる姿が町のあちらこちらに見られる。

 雨の中、シャウカット・アジズ(Shaukat Aziz)首相は独立記念祝典に臨んだ。

 だが、国民の視線はもっぱらペルベズ・ムシャラフ(Pervez Musharraf)大統領に向けられている。ムシャラフ大統領は1999年、陸軍参謀長時代にクーデターを主導。当時のシャリフ政権を崩壊へと導き、自ら最高行政官に就任した。

 陸軍参謀長としての地位を保ったまま次の大統領選挙で勝利を狙って憲法を捻じ曲げていると批判されているムシャラフ大統領は、独立記念日を祝う国民向けの声明の中で、2008年年初にも予定されている選挙への参加を呼びかけた。

 大統領声明は国営通信社のAPPAssociated Press of Pakistan)を通じて発表された。大統領は、「パキスタン市民に対し、来る選挙に参加し、共に民主的かつ穏健主義的なイスラム国家を目指してほしい」と宣言した。

 大統領は前週、国内の混乱を回避するために非常事態宣言を検討していると述べたあと、すぐにこれを撤回し、物議を醸している。
 
 国内ではイスラマバードの「赤いモスク(Red Mosque)」制圧後、過去数週間にわたり自爆攻撃などが相次ぎ、200人近くの犠牲者が出ている。またアフガニスタンとの国境付近の部族地域では、武装組織が勢力を拡大している。

 大統領への非難の声は、友好国である米国からも聞かれる。米国を含む世界各国へのテロ攻撃を計画するイスラム原理主義組織タリバン(Taliban)や国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)のメンバーの巣窟となることを、パキスタン政府が見過ごしている、というものだ。

 こうした非難に対しムシャラフ大統領は、13日に行われた式典で国営パキスタン・テレビに出演し、テロとの戦いに真剣な態度で臨むとの声明を出している。

 さらに、パキスタン国内の武装勢力に対する米国独自の掃討作戦については、「国境付近での(米軍による)掃討作戦実行は絶対にありえない。もしも何らかの作戦が遂行されるとしたら、それはパキスタン軍によるものだ」と述べ、米国政府の提案を拒否する姿勢を明らかにした。

 パキスタンは独立を果たした1947年、カシミール(Kashmir)領有問題でインドとの紛争に陥った。イスラム教徒は東西パキスタン(東パキスタンは後にバングラデシュとして独立)に、ヒンズー教徒はインドにそれぞれ永住の地を求めた。

 このときに国境を渡った人数は約1000万人。史上最大規模の民族大移動だったと言われる。その際、人々の間で激しい衝突が起き、50-100万人が亡くなった。

 以来、パキスタンとインドは3度にわたり紛争を繰り返した。うち2度はカシミール領有問題をめぐるものである。現在のインドの経済発展は、パキスタンにとってはあまり大きな問題ではないようだ。

 独立60周年を迎えた14日、イスラマバードを含む大都市では治安部隊が警戒に当たり、花火は禁止され、集会も最小限に制限されるなど、祝賀ムードは感じられない。

「今年は特に武力闘争が頻発している。主要都市には万が一に備えて私服警官を配備し、監視カメラを設置している」と東部の都市ラホール(Lahore)の警察所長は語った。

 60周年を祝う最大規模の祝典は、インドとの国境付近、ラホールに程近いワガ(ワガ)で開催される予定だという。(c)AFP/Masroor Gilani