【カブール/アフガニスタン 9日 AFP】イスラム教の学校マドラサへ行き、家に帰り、ベッドに潜り込む・・・アフガニスタンとの辺境州地区ワジリスタン(Waziristan)の極貧の村での生活は、毎日が同じことの繰り返しだった。「もちろん、退屈だったよ」とまだ10代のパキスタン人の少年、Hainuallahは言う。

 そんなある日、マドラサの教師がしてくれた説教は、その退屈さから抜け出す方法についてだった。魅惑的な乙女の妖精たちに囲まれ、果樹林の下をミルクと蜂蜜の川が流れる天国の話 - そこへ行くための切符を手にする方法だった。

 「僕はアメリカ人に自爆テロで突っ込むために、アフガニスタンに来たんだ」とHainuallahは言った。「そうすれば天国に永遠に住める切符が手に入ると、ムッラ(イスラム教の指導者)が言ったんだ」。

■ アフガニスタンで拘束

 カブール(Kabul)にあるアフガニスタンの諜報機関内の地下牢を訪問したAFP記者の前に連れ出されたHainuallahは、イスラム教の成人男性が習慣とするあごひげもまだ生えそろわない少年だった。彼を担当する捜査官いわく、Hainuallahは12月下旬に60キロ離れた南部の町ガズニ(Ghazni)で逮捕され、ここへ移送されてきて2日目だという。少年は拘束された時に、爆弾を仕掛けたベストを着込んでいたという。

 身につけた伝統衣装は乱れ、疲れた表情を見せながらも、情報将校たち数人を前にした尋問にHainuallahは落ち着いて答えていた。しかし、それ以前に秘密警察に答えた内容と大差はなかった。Hainuallahの左目の下には軽い擦り傷があったが、手荒な扱いは受けなかった、と述べた。

■ 自爆テロの少年たちは学校で勧誘される

 将校たちによると、ほとんどの自爆テロ犯はイスラム教の学校マドラサで勧誘された貧困層の若者だという。イスラムの聖典コーランを学ぶ場所である以上に、自爆テロへの勧誘の拠点となっていることからマドラサへは、諜報機関の注意が向けられている。

 諜報局のSayed Ansari広報担当官は、昨年逮捕した20人以上の自爆テロ犯が、貧困地域の共同体から募集されてきた無学の若者で、「精神障害を持っている者やドラッグ中毒の者もいた。多くはムッラたちに洗脳されている」という。Hainuallahは自爆テロ計画実行の前、緊張を解くための「特効薬」をもらったという。「それを飲めば、恐れが消えるのです」。ポケットから発見された薬は現在、鑑定所で検査中だ。

 また他の高官によると、勧誘された若者たちはパキスタンの国境沿いトライバル・エリア(部族地区)で、「外国人たち」によって訓練された後、アフガニスタン内に派遣されるという。

■ 聖なる戦士は天国が見られる

 Hainuallahの場合は、「聖なる戦士」に加わらないかと友人に誘われ、地元のムッラに紹介された。「天国」の話で乗り気になった頃、訓練のため、アフガニスタンの旧政権タリバン(Taliban)の司令官に引き渡されたという。そして10月、故郷の村から軽トラックに乗せられて未舗装の道を5時間移動し、南ワジリスタン(South Waziristan)ワナ地区にある壁で包囲された施設に連れて行かれた。

 施設では数週間、Hainuallahの言葉と同じパシュトウ語を話す男たちに、偽の爆弾や爆発物を使って訓練を受けた。パシュトウ語はタリバンに加わる者の多くも話す言語だが、男たちは自分の素性を明らかにしなかった。さらにその後、Hainuallahは別のグループに引き渡された。あごひげを生やし、AK-47自動小銃を使う男たちだった。彼らは徒歩で国境の山岳地帯を越境し、Hainuallahをアフガニスタンへ入国させた。そこはガズニの外れの村だと聞かされた。

■ 訓練官による町中のガイドも

 アフガニスタン内では、多くの「訓練官」たちが車やバイク、時には徒歩で、パキスタンの若者に町を案内していた。アフガニスタン軍や国際治安支援部隊(ISAF)が警戒していたが、町中を移動する時には「訓練官」たちは警官の制服を着用していた。そして「将来の標的」となりそうな政府関連の建物や軍の車列などの横を通った。

 Hainuallahはある日、爆弾の仕掛けられたベストを手渡され、起爆装置を見せられた。しかし、標的を探そうと政府施設の周辺を歩き回っているときに、諜報機関の警官らに取り押さえられた。Ansari広報担当官によると、Hainuallahと彼の隠れ家については、情報を得ていたという。「彼が自爆テロに成功していたら、大勢が殺されていただろう」。

 感受性の強い年頃のHainuallahは、約束された天国を見つける代わりに今、裁判にかけられ、アフガニスタンの刑務所で何年かを送る現実と直面している。

 写真は5日カブール(Kabul)で、アフガニスタン情報部の小部屋に座る少年。(c)AFP/FARZANA Wahidy