【4月12日 AFP】1月に発生したアルジェリア人質拘束事件で、砂漠に建つ天然ガスプラントを襲撃したイスラム武装勢力の中に2人の自国民がいたことに衝撃を受けたカナダ当局は、閑静な中流階級地区出身の若者たちがどうやって「ジハーディスト（イスラム過激派戦闘員）」になったのか、理解に苦しんでいる。

 アルジェリア軍が南東部イナメナス（In Amenas）にあるガスプラントを数日にわたって包囲し、突入した直後にアルジェリア当局は、2人が死者に含まれていると発表した。ある情報筋は2人について、血の海となった現場で、人質38人と共に死亡した武装勢力29人の中にいた二重国籍のアラブ人だと述べていた。

 しかしようやく前週になってカナダのメディアが、2人がオンタリオ（Ontario）州の静かな街ロンドン（London）で育った同級生同士だったと報じると、世間の関心が集まった。

 公営放送CBCによれば、1人はギリシャ正教家庭出身のクリストス・カチルバス（Xristos Katsiroubas）容疑者（22）、もう1人はアリ・メドレジ（Ali Medlej）容疑者（24）で、2人はアルジェリア軍に包囲される中、自爆したとみられる。

 またCBCは、一緒にアルジェリアへ渡航した他の2人も共犯者の可能性があると報じている。このうちの1人、アーロン・ユン（Aaron Yoon）容疑者（24）は、韓国系のカトリックの家庭出身。事件が起きる前にアフリカ西部モーリタニアで逮捕され、「テロリズム」の罪で昨年半ば、禁錮2年の刑を言い渡されている。最後の1人の行方はつかめていない。

 カナダ連邦警察（RCMP）は4日、カチルバス容疑者とメドレジ容疑者をアルカイダ系の戦闘員と認定し、このカナダ人一行が事件の計画に関わるようになった理由と経緯に関する情報提供を一般に呼び掛けた。

 2人は家庭に居場所がなく憤り、最終的に家族との縁を切ったという報道もある。また高校を卒業した後に働いたが、雇用者たちから礼拝の時間を許可されなかったため、単純労働の職を転々とせざるを得なかったとも報じられた。

 RCMPが公開している、いわゆる「国産テロリストの脅威」に関する手引き書は、イスラム教への改宗はメディアでは「テロ行為へ一直線」のように描かれることが多いが、イスラム教は世界で急速に拡大している宗教の一つで、改宗者の大半は単にイスラム教によって「目覚めた」と感じた平均的な人々だと述べている。一方で「イスラム系テロリストたちの計画に改宗者は絶えず存在し、米国では未遂に終わった計画の容疑者の約半数は改宗者だ」としている。RCMPでは「過激派が操りやすい情動状態を、改宗という体験が生み出しうる」というイスラム指導者たちの懸念を挙げている。

■女性と飲酒をやめずに天国に行くには…

 メドレジ容疑者の友人だったという男性はCBCに対し、メドレジ容疑者が「女性と飲酒だけは止められない」と漏らしたことがあると語った。メドレジ容疑者は「自分のライフスタイルの中でどうしても止められないものがある。だからイスラムを信仰するのは自分にとって難しい。ならば、できそうにない全ての努力の代わりにさっさとシャヒード（殉教者）になって、天国へ行ってしまえばいいんじゃないか」と述べたという。

 一方、カチルバス容疑者と同じく改宗してイスラム教徒となったユン容疑者の兄は匿名で取材に答え「（改宗は）いいことだった。もちろん改宗する前には僕にも疑問があったし、それについて話もした…でも彼は前よりも良い人間、敬意を払う人間になっただけだった」と語った。この兄はユン容疑者が北アフリカへ行ったのはアラビア語とコーランを学ぶためで、テロリストの攻撃に関わるためではなかったと強調した。しかし、カナダ外務省はユン容疑者が北アフリカで収監されていることを確認している。

 元同僚の女性は、ユン容疑者の改宗についてCBCの取材でこう振り返っている。「彼は輝きを失ったようだった。以前のような打ち解けた、明るい人じゃなくなってしまった。物思いにふけっていて、心が死んでいるという感じで──前は友達がたくさんいて社交的だったのに、誰とも話したがらなくなってしまった。誰にも心を開かなくなったのよ。彼の生活は、自分と自分の宗教と仕事だけになってしまった」 (c)AFP/Michel Viatteau