【11月28日 AFP】米国で厳格な伝統的生活を続けるキリスト教の一派「アーミッシュ(Amish)」の指導者らが前月、襲撃され、ひげや髪を剃られるという事件があった。事件に絡み逮捕された男が、教えに反する者に暴行を加えたり、鶏舎に拘束したり、既婚女性に性的な儀式を行う「暴君」だったことが明らかになってきた。

 アーミッシュは主に米オハイオ(Ohio)州とペンシルベニア(Pennsylvania)州の共同体に居住するキリスト教徒で、電力や携帯電話、自動車などの近代の文明の利器を使うことを拒否して暮らしている。指導者はビショップ(司祭)と呼ばれ、複数のグループが近隣に居住する。

 サミュエル・マレット・シニア(Samuel Mullet Sr.)被告(66)と3人の息子のジョニー(Johnny)被告、ダニエル(Daniel)被告、レスター(Lester)被告、義理の息子のエマニュエル・シュロック(Emanuel Schrock)被告、信者のリーバイ(Levi)被告、エリ・ミラー(Eli Miller)被告ら7人は、宗教的な憎悪犯罪(ヘイトクライム)の実行と共謀の罪で起訴された。

 ベルゴルツ(Bergholz)の小さな共同体を暴力で従えていたマレット被告は、自らの判断に異議をとなえた対立者らのヒゲと髪の毛をそるよう息子と信者らに命令したとされる。襲撃者らは刃渡り約20センチのはさみと電動式バリカンを手に、被害者らの自宅を夜に訪れ、拘束した上で男性のひげと女性の髪の毛をそりおとしたとされている。

 この事件は、報復を認めないアーミッシュの人びとに大きな衝撃を与えた。アーミッシュの男性のひげ、女性の長い髪は神聖視されており、それをそられることは究極の屈辱と考えられていたからだ。

 被告のうち5人は前月、誘拐などの容疑で逮捕されたのち保釈金を支払って保釈され、マレット被告は23日に拘束された。被告7人は、有罪の場合、最高で終身刑が言い渡される可能性がある。

■暴力や性的行為で支配

 米連邦捜査局(FBI)の捜査後に発表されたマレット被告の義理の娘や元の義理の息子らなどの証言を含む宣誓供述書によると、マレット被告は「ベルゴルツの人たちの生活のすべて」を管理していたという。

「ベルゴルツ内では、マレット被告の許可がなければ、いかなる判断も下されず、訪問者も認められなかった」と、宣誓供述書には述べられている。「アーミッシュの教えと聖書を軽視して、マレット被告は、コミュニティー内で彼に反対する者に対して強烈な罰を与え、肉体的負傷を負わせた」

 また、「マレット被告の敷地内にある鶏舎で、何日間も寝泊まりをさせられたりした他、マレット被告に従わない者に対してはメンバーが暴行を加えて良いことになっていた」。「さらに、マレット被告はグループ内の既婚女性たちに『カウンセリング』を行い、女性たちを自宅に連れ込んで、悪魔から身を清めると述べて性的な行為をしていた」

■離反者の破門撤回がきっかけか

 宣誓供述書によると、マレット被告と家族は1995年ごろ、オハイオ州フレデリックタウン(Fredericktown)にあるコミュニティーから、ベルゴルツのコミュニティーに移住してきたという。マレット被告は2003年にベルゴルツグループのビショップに就いた。だがその2年後、マレット被告の指導に合意できないとして、8家族がベルゴルツを離れた。

 マレット被告はこの8家族を破門した。アーミッシュのおきてのもとでは、破門された信者は、問題が解決されるまで他のコミュニティーに参加することができなくなる。そこで、ペンシルベニア州ユリシーズ(Ulysses)でアーミッシュの宗教指導者300人が集まり、マレット被告の行いとベルゴルツグループで起きたことの対策を検討する会合が持たれ、破門の撤回が決定された。

 この判断にマレット被告が激怒したことが襲撃につながったとみられている。破門撤回に関与したビショップら数人が、10月4日から数日の内に襲撃を受け、ひげを剃られたり、髪を切られたりした。(c)AFP/Andrew Gully