【11月24日 AFP】ローマ法王ベネディクト16世(Pope Benedict XVI、83)が初めて性や神父による児童性的虐待の問題を語ったとして発売前から話題を読んでいた書籍『Light of the World: The Pope, the Church and the Signs of the Times(世界の光:ローマ法王と教会、そして時代のしるし)』が24日、各国の書店に並んだ。出版社によると、発売初日から飛ぶように売れているという。

 発売前に公開された同書からの抜粋で、法王が従来のローマ・カトリック教会の信条を越えて条件付きながらコンドームの使用を容認する発言をしていたことが明らかになったことから、同書への関心が高まっていた。同書は18の言語で出版された。

■「コンドーム容認」で注目

 出版元の米イグナシアス・プレス(Ignatius Press)によると、前月だけですでに1万2000件の事前予約が入っていた同書の売れ行きは好調で、在庫がなくなった卸売業者から追加仕入れを求める電話が入っているという。

 前週末に公開された抜粋のなかで、ローマ法王は、売春を職業とする男性についてはコンドームの使用が正当化される場合もあるかもしれないと語っているが、イタリア語版では、これが女性のセックスワーカーの場合と誤訳されたため、同書に強い関心が集まっていた。

 これについて法王庁は23日、HIV感染を防ぐ目的でのコンドーム使用は、全ての性産業従事者にとって妥当だとする声明を発表。フェデリコ・ロンバルディ(Federico Lombardi)広報局長は、「男性、女性、性転換者であれ違いはない。法王のメッセージは、他人の生命を危険にさらすリスクは避けるべきだということだ」と語った。

■性的虐待被害者団体からは批判も

 ゼーバルト氏とのインタビューで法王は、各地で発覚したローマ・カトリック教会の神父による児童性的虐待の問題では「かつてないほどの衝撃を受けた」と語っている。ローマ・カトリック教会が直面した最大級の危機となったこの問題には非難が集中し、法王自身の威光にも暗い影を落とす結果となった。児童性的虐待の問題に関する法王のコメントに、聖職者による性的被害者の団体「SNAPSurvivors Network of Those Abused by Priests)」は批判的だ。

 SNAPのマーク・セラーノ(Mark Serrano)氏は「法王は、聖職者の性犯罪については2002年の時点で世界的な調査を始めるべきだった、と発言した。この点について法王は正しいが、当時も、今も彼は調査を実施していない」と批判する。また、「法王がミュンヘン(Munich)大司教やバチカン(Vatican)の枢機卿だった時に、神父らによる児童性的虐待を知りながら隠ぺいをはかった疑惑に触れていない」と『Light of the World』への不満を示し、「法王自身がこの問題への関与を認めない限り、法王の道徳的権威は傷ついたままだ」と語った。

■「退位もありうる」と発言

 インタビューでは退位についても質問され法王は「あり得る」と答えたが、「肉体的、心理的、霊的に法王の職務続行が困難だと自覚したとき」との条件を付け加えた。

『Light of the World』はドイツ人ジャーナリスト、ペーター・ゼーバルト(Peter Seewald)氏が法王に計20時間のインタビューを行ってまとめたもの。最後のインタビューはことし7月に行われた。著者のゼーバルト氏は、以前は共産主義者だったが、ヨゼフ・ラッツィンガー(Joseph Ratzinger、本名)枢機卿と呼ばれていたころの法王と知り合ってカトリック教徒になった。『Light of the World』以前にも、法王とのインタビュー集を2冊出している。(c)AFP/Michele Leridon