【9月1日 AFP】米エール大学出版局(Yale University Press)は11月にイスラム教の預言者ムハンマド(Prophet Mohammed)の風刺画問題に関する本を出版する予定だが、この本から12枚の風刺画が削除されることになり、激しい議論を呼んでいる。

 2005年9月にデンマーク紙ユランズ・ポステン(Jyllands-Posten)に掲載されたムハンマドの一連の風刺画は、世界中のイスラム教徒らの反発を招き、抗議デモが頻発。パキスタンではデモに参加した5人が死亡する事態にもなった。

 こうしたイスラム世界の反応を検証した『The Cartoons That Shook the World(世界を震撼させた風刺画)』について、同大出版局はこのほど、外交官や識者、専門家ら数十人の意見を聞いた後、「暴力を招き、職員にも危害が及ぶ可能性がある」として、風刺画の削除を決定した。

 出版局では検閲ではなく、安全確保のためだと強調している。また問題の風刺画の画像は世間に出回っていて新しい情報ではなく、深刻な問題を引き起こす危険を冒して改めて出版することもないと説明している。

 本を執筆した米ブランダイス大学(Brandeis University)のジッテ・クラウセン(Jytte Klausen)教授(政治学)はやむなく同意したものの、その根拠を問題にしている。

 大学側は、イブラヒム・ガンバリ(Ibrahim Gambari)国連(UN)事務総長特別顧問が「風刺画が掲載された場合、インドネシアからナイジェリアまでの広い範囲で暴動が起きる」と警告したと説明しているが、クラウセン教授は「国際関係における対立のケーススタディーとして大学生向けに書かれた研究本が、ナイジェリアで内戦を引き起こすことなどありえない。イスラム教徒からの抗議はひとつもなく、イスラム教徒の評論家も執筆しているのに、風刺画を削除するという決定はゆゆしきことだ」と話す。

 風刺画の削除は、出版界からも多くの反発を招いている。米エンターテインメント誌「ヴァニティ・フェア(Vanity Fair)」のコラムニスト、クリストファー・ヒチェンズ(Christopher Hitchens)氏は、オンラインマガジン「Slate」で次のように非難した。「われわれの文化のなかで拡大しつつある宗教原理主義、特にイスラム原理主義への完全な降伏を示す、おそらく最も極端な例だ」

 ジャケットカバーに賛辞を寄せた、イスラム学者で『変わるイスラーム 源流・進展・未来(No god but God: The Origins, Evolution and Future of Islam%)』の著者、レザー・アスラン(Reza Aslan%%)氏は、同大の決定に抗議し、賛辞を取り下げた。(c)AFP/Jane Mills