【11月24日 AFP】ピンクのスカーフで髪を覆いロングドレスに身を包んだ、敬けんなイスラム教徒の主婦・マリャニ(Maryani)さん(48)はこうつぶやく。「わたしのペニスは、神様からの贈り物です」

 彼女は、男として生まれ、カトリック教徒として育てられた。インドネシアのジョクジャカルタ(Yogyakarta)のトランスジェンダーのコミュニティーの中で、夜な夜な酒におぼれ、売春で生計を立てる日々を何年か過ごしたあとで、イスラム教に目覚め、改宗した。

 現在は、8歳の娘を養子として育てながら、仲間の「ワリア(waria)」(トランスジェンダーの意)たちをイスラム教に導く仕事をしている。今年7月、狭い路地にある自宅を改装して、インドネシア初のワリアのためのイスラム学校を創設した。

  週2回のコーランの授業には、さまざまな身なりをした20人程度のワリアたちが集まってくる。みんな、目が充血しており、徹夜で飲み明かしたり客待ちをしていたりした形跡がうかがえる。

 マリャニさんは「ワリアだって人間だ。わたしたちにも、天国へ行く権利、地獄へ堕ちる権利がある。生を与えられたのだから、神様のことを常に意識する必要がある」と話す。

 男性でも女性でもないワリアは、世界最大のイスラム教徒人口を抱える同国で、長らく「第三の性」として知られてきた。具体的には、女性として生きることを望む男性を指し、ホルモン注射や乳房の移植手術などを受ける人もいる。だが、性転換手術は通常行われない。マリャニさんも、ペニスを切除するつもりはないという。「神から与えられたものに感謝している。手術を受けたら神の意思に背くことになる」とマリャニさん。

 ワリアは、ジョクジャカルタだけで300人程度おり、その多くが売春で生計を立てているとみられている。

 マリャニさんの学校は、本物の男、または女になれと説くことを避けている。罰についても教えないようにしている。教師は、着任当初は戦々恐々としていたが、やがてワリアたちにも普通の感情、祈りたいという気持ち、神に従いたい心があることを知ったという。「わたしたちには、彼らに『男になりなさい』と言う権利はありません」(c)AFP/Aubrey Belford