【6月12日 AFP】エジプト人のイスラム教聖職者でカタールの衛星テレビ局アルジャジーラ(Al-Jazeera)のパーソナリティーをつとめるカラダウィ(Yusuf al-Qaradawi)師は、自身のウェブサイト上に「礼拝は10分もあれば充分」とのファトワ(宗教見解)を発表した。同師にとって、エジプト国民の仕事の生産性を上げるための方法はただ1つ、「礼拝時間を減らしてその分仕事に励む」ことなのだ。

■礼拝による中断で仕事の生産性が低下

 1日5回の礼拝は、メッカ巡礼や喜捨に並びイスラム教徒にとって「5つの柱」の1つ。だが正午の祈りと午後の祈りは勤務時間内であるため、多くの会社では日に最低2回、仕事が中断されることになる。

 1回あたりの礼拝時間は平均10分だが、コーランの長い章句を読誦する場合はさらに時間が延長される。礼拝前には顔、手、腕、足、頭を清めなければならないため、大きな会社ではトイレを往復する時間もとられることになる。

 政府職員600万人の1日当たりの平均の実質的な仕事時間はわずか27分という公式の調査結果がある。

 エジプトでは、大きな会社や工場、公共の建物には礼拝所が設けられている。モスクからいつアザーン(礼拝の呼びかけ)が流れてもいいように、各自は礼拝用マットを机の上などに畳んで用意している。

■政府庁舎を訪れる人々、果てしない中断に「うんざり」

 カイロ(Cairo)の繁華街には13階建ての政府庁舎があり、65部門で計1万8000人の職員が働いている。ここにはパスポートや労働許可証を希望する人など、毎日3万人が訪れる。申請書類を持ってここを訪れた会社員のアーメドさんは、「礼拝は多いし長い。果てしない中断。何かやってもらえるだろうなんていう希望はないよ」と語った。

 90年代に大ヒットを飛ばしたエジプト映画『テロリズムとケバブ(Terrorism and Kebab)』は、この政府庁舎を舞台にしたコメディだ。アデル・イマム(Adel Imam)演じる中産階級の主人公は、職員が繰り返し礼拝で席を立つために延々と待たされ、ついに怒りを爆発、保安員と取っ組み合いのけんかをしてテロリストに間違われてしまう。

■エジプトの聖職者らは好意的

 カラダウィ師は、礼拝時間を短縮する方法として「お清めは家で済ませてくること」「会社で清める場合はソックスを脱がずに履いたまま水をかけること」などを提唱している。

 過去30年間でイスラム教化を推進してきた同国では、礼拝時間が長いことへの批判はことごとく封じ込められてきた。カラダウィ師のファトワは「仕事をしないことへの口実となる礼拝を極力省く」ことを目指したものだが、「礼拝休憩」という深く根を下ろした習慣を覆そうとしているとも受け止められ、非難は必至だ。

 その一方で、エジプトの一部の聖職者は同師の主張をおおむね肯定している。アズハル大学(Al-Azhar University)のFawzi al-Zifzaf師は、「彼は正しい。仕事の時間を無駄にしてはならないし、礼拝を口実に使うのも許されない」と話している。(c)AFP/Alain Navarro