【ラサ/中国 28日 AFP】チベット仏教の主管寺レティン(Reting)寺は人里離れた渓谷にひっそりとたたずみ、その存在は外部にほとんど知られていない。

 チベット自治区の首都ラサ(Lasa)北東160キロ、海抜4100メートルに位置するレティン寺は、荒涼としたチベットで精神的休息を与える存在となっている。ヒマラヤ山脈を背に立つ寺の白壁は、周囲のヒマラヤ杉との絶妙なコントラストを生み出している。

■「ここで暮らしたい」―ダライラマ

 寺のある渓谷の底には数多くの仏舎利塔が立ち並び、放牧されているヤクやブタのかたわらで信者らが祈りを捧げ、精神世界のチベットを象徴する風景が広がっている。この美しい風景は、50年間の亡命生活を送るダライ・ラマ(Dalai Lama)14世に、自身がチベットへ帰還した際には首都ラサではなくレティンで暮らしたいと言わしめている。

 1056年建立のレティン寺は10世紀近い歴史を持つが、40年前の文化大革命(Cultural Revolution)時、毛沢東(Mao Zedong)率いる中国共産党の人民解放軍によって激しく破壊されている。
 
■政府が後継者の即位を発表
 
 しかし、中国を統治する共産党は理論上、無神論の立場をとっており、従って信教分離の原則が存在しない。一方で、すべての宗教行事の実施や宗教官僚の任命は政府たる共産党が行うという矛盾した体制をとる。政府は歴代ダライ・ラマを、中国からのチベット分離独立運動の指導者とみなし、その存在を違法としている。よって、ラティン寺の壁にはダライ・ラマの肖像や写真は1枚もない。

 1989年にノーベル平和賞を受賞した現在のダライ・ラマ14世はチベット自治区の自治権拡大を目指した。1959年に「チベット地域の解放」と称して政府の人民解放軍が侵攻して以来、亡命生活を送っている。

 中国政府は2000年、唐突に第7代リンポチェとして12歳の少年の即位を発表したが、この時、レティン寺の僧たちは激しく抗議した。リンポチェは政府が望み、ダライ・ラマに代わる「正統」な後継者として即位させられたとする見方が一般的だ。

 しかし、中国政府の監視の下、レティンに25年間住んでいるJinba氏は、ダライ・ラマについては口を閉ざし、若いリンポチェについても短い見解を示すにとどめた。

 写真は25日、レティン寺近辺のチョルテン(仏塔)を訪れる巡礼者たち。(c)AFP/Peter PARKS