【7月23日 AFP】インドネシアにあるナチス・ドイツ(Nazi)を題材にしたカフェでは、血のような赤い壁に高く掲げられたアドルフ・ヒトラー(Adolf Hitler)総統の肖像が、子牛肉のカツレツ「シュニッツェル」とドイツビールを楽しむ若い学生たちを見下ろしている。

 この「ソルダテンカフィー(SoldatenKaffee)」(「兵士のカフェ」の意)は2011年、西ジャワ(West Java)州バンドン(Bandung)にオープンした。店名は、第2次世界大戦中のドイツ国内と占領下のパリ(Paris)で兵士たちに人気を博した店舗からとった。

 店内に飾られたガスマスク入れや鉤(かぎ)十字の戦旗よりも不気味なのは、カフェが開店してから2年間にもわたり、特に問題視されなかったことだ。

 カフェが開店した際、ナチス・ドイツの軍服を着たウエーターと来店客に誰も批判の声を上げなかったという。世界最大規模のイスラム教人口を持つインドネシアに住むユダヤ人はわずか20人。ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)への関心は薄い。

 だが英字新聞ジャカルタ・グローブ(Jakarta Globe)がこのカフェを取り上げたことから、オンラインで批判が巻き起こり、バンドンの副市長が店主を呼び付ける事態になった。

 副市長は「まずは店主に意図を詳しく聞く必要がある。だがバンドン市が人種憎悪をあおるようなことを認めないのは、はっきりしている」と語った。

 カフェの創設者で店主のヘンリー・ムルヤナ(Henry Mulyana)さんは、ホロコーストの記憶を想起させることが意図ではなかったとしつつも、自分が「悪者」扱いされることに驚きはないと語る。

 エアガンが趣味だというムルヤナさんはキリスト教徒。18日のAFPの取材に、「私はヒトラーを崇拝していない。兵士たちの装備品が大好きなだけだ」と語った。

 店舗には水筒や銃剣、ゴーグル、ランタンなどが展示されている。大半はオンラインで購入したという。「鉤十字が付いた物のほうが価値がある」(ムルヤナさん)

 英語のメディアに掲載されるまで同レストランへの報道は好意的なもので、客足も途絶えることはなかったという。

 恋人とカフェを訪れた炭鉱会社従業員の男性は、スパゲティを食べながら「私たちはインドネシアに暮らしていて、インドネシア人はホロコーストの犠牲になってない。だから、別に気にしない」と語った。

 しかし、このカフェの存在を知らせるニュースがより広い読者に届いたことにより、今では、世界各地のユダヤ人が怒りの声を上げている。

 米ロサンゼルス(Los Angeles)を拠点とするユダヤ人権利擁護団体サイモン・ウィーゼンタール・センター(Simon Wiesenthal Center)のユダヤ教ラビ(指導者)、エイブラハム・クーパー(Abraham Cooper)氏は、同団体が「40万人の会員とナチスのホロコースト犠牲者を代表した意見を表明するために、インドネシアの外交官らに接触しているところだ」とAFPの取材に電子メールで述べた。

   「その中核において全ての有色人種と非アーリア人を侮辱するジェノサイド(大量虐殺)のイデオロギーを称揚するこの店舗を閉鎖するため、あらゆる適切な手段が行われることを期待している」(クーパー氏)

 インドネシアの法律では、人種や民族に基づいた他者への憎悪を意図的に表明する者に対し、最高で禁錮5年の刑を科すことが出来る。しかし、そのような中傷はたいてい見過ごされている。同国では近年、イスラム強硬派がほぼ処罰なしに宗教的少数者への暴力行為に及んでいる。

 ムルヤナさんは、ドイツ人を含む欧米人もカフェを訪れて楽しんでいると述べ、人気観光地のバリ(Bali)島にさらに大型のカフェを出店する計画を語った。

  「ヒトラーの肖像はもちろん展示する。ウィンストン・チャーチル(Winston Churchill)元英首相の肖像や、第2次世界大戦時の米軍や日本軍の兵士たちの装備品もだ」

 ムルヤナさんは、ホロコーストがあったことは否定しなかったが、タブー視するのは偽善だと述べた。「人道を主張したいのなら、なぜ今すぐ、アフガニスタンなどの世界の戦争を止めないのか。戦争は常に多くの命を奪う」

 だが、20日にAFPが再度取材したところ、ムルヤナさんは店舗を一時的に閉鎖することにしたと語り、それ以上の詳細については返答を拒否した。(c)AFP/Presi Mandari