【4月16日 AFP】欧州やオーストラリアのスーパーマーケットや商店で粉ミルクの棚が空っぽになる事態が相次いでいる。国産の粉ミルクに不安を持つ中国人の母親たちの需要に応じて、バイヤーたちが欧州ブランドの粉ミルクをまとめ買いしているためだ。

 まだ2008年の化学物質メラミン入り粉ミルク事件の記憶も新しい中国で、乳児を持つ親たちは国産粉ミルクの3~4倍もの金額を払ってでも欧州からの粉ミルクを入手している。これに対し欧州の店舗も、粉ミルクの品切れを防ぐため粉ミルクの購入数に制限を設けるなどの対策に乗り出した。
 
 ドイツに住む中国人女性シャオさんは、ドイツで購入した粉ミルクをインターネットを通じて中国の母親たちに販売している。

 シャオさんのような欧州に住む多数の中国人たちが、地元で粉ミルクを大量に購入しスーパーなどの棚を空っぽにしているのだ。

 中国ネットオークション最大手「淘宝(タオバオ、Taobao)」ではドイツ、英国からそれぞれ4000点、フランスからも3000点の粉ミルクが出品されている。

「親戚や友人に粉ミルクを送り始めたのがきっかけだった」という専業主婦で母親でもあるシャオさん。通常、母親たちは1回につき6~8箱を購入するという。中国への配送に1か月かかるため、手元の粉ミルクが途切れないようにするためだ。シャオさんは粉ミルクの販売で若干の収入を得ているという。

■尾を引く国産粉ミルク不信

 2008年のメラミン入り粉ミルク事件に加え、昨年にも国産の粉ミルクから発がん性物質が発見されており、国民の国産粉ミルク不信は高まるばかりだ。

 それでも、2012年の国連児童基金(ユニセフ、UNICEF)報告書によれば中国での母乳率はわずか28%だ。産休期間が短いことや粉ミルクメーカーの宣伝攻勢が背景にある。 

 だが、購入者たちは中国市場で販売される商品に不信感を抱いている。欧州ブランドの粉ミルクでも中国市場向けパッケージで販売されているものは信用できないという。

 消費者調査企業ユーロモニター(Euromonitor)によれば、中国は間違いなく世界最大の粉ミルク市場だ。「中国の若い親たちは国際的な粉ミルクメーカーの商品、特に製造国と同じパッケージのまま輸入されたものが、より安全だと考えている」とアナリストのベラ・ウォン(Vera Wang)氏は話す。

 こうした中国で高まる海外ブランド粉ミルク志向が、欧州各国で粉ミルク不足を引き起こしているのだ。

■欧州では怒りの声も

 ドイツメディアは空っぽになった粉ミルクの棚の写真を掲載。欧州最大の発行部数を持つビルト(Bild)紙は1月、「アプタミル(ドイツの粉ミルクブランド)の棚の前でドイツの母親たちが『私たちの粉ミルクを中国人が買い占めた!』と怒っている」と報じ、アプタミルを製造するMilupaは、「アジア向け輸出」が原因だとしてアプタミルの品切れを謝罪した。ただしMilupaは直接、アプタミルをアジアに輸出しているわけではなく、購入者はドイツ国内の商店で直接アプタミルを買っていると説明している。

 こうした事態に欧州の各店舗は粉ミルクの購入数に制限を設け始めた。

 ドイツの薬局チェーンDMはアプタミルの購入数を1回3箱までに制限。英国でも各スーパーがメーカーからの要請に応じて粉ミルクの購入数を1人あたり1日2缶までとした。Milupaの親会社ダノン(Danone)は「中国への非公認輸出」による粉ミルクの大量買いを防ぐための措置だと説明している。

 中国経済紙「21世紀経済報道(21st Century Business Herald)」によると、英国のスーパーマーケットで1週間に粉ミルクを100箱以上購入した中国人が入店を拒否されたという。

 ドイツ・フランクフルト(Frankfur)近郊を拠点に中国人への粉ミルク販売を続けていた中国人男性はAFPに対し、最近は粉ミルクの入手が難しくなったため中国への粉ミルク販売業を止めてしまったと明かした。

 だが粉ミルクの品切れや購入制限にも関わらず、シャオさんは諦めていない。「あるスーパーで粉ミルクが売り切れていたら、別のスーパーを探します。私がやっていることは(中国の)母親や子供たちのためなんです。私自身も母親なので、どんなに粉ミルクが大事か身をもって知っているから」(c)AFP/Tom Hancock