【2月14日 AFP】カメラが寄ると無精ひげの男が一服し、濃い煙をいかにもうまそうに吐き出す――世界中で今や禁止されている典型的なたばこのコマーシャルとそっくりだが、最近米国の視聴者にウケているこの商品は少々違う。

 「このたばこの一番すごいところは何でしょう?」とナレーションが入ると、現代の「マルボロマン」は不愛想な目線をカメラに向けながら、昔ながらのように見える紙パックに繰り返し吸えるたばこを戻す。

 「NJOY」というこのたばこの正体は、電子たばこ。先端の「炎」はLEDライト、煙のように見えるのは実は水蒸気だ。たばこの値段が急上昇し、喫煙者がいっそう有害成分を気にするようになった今、市場に出回り始めた電子たばこの1銘柄だ。

 初の電子たばこは2003年、中国で登場した。1950~60年代のたばこのコマーシャル同様、魅力的な女性と無骨でたくましい男性を起用した宣伝戦略は現代でも当たった。

 米医学誌「米予防医学ジャーナル(American Journal of Preventive Medicine)」に先月掲載された研究で、米国、英国、カナダ、豪州の電子たばこ使用者に質問したところ8割が、従来のたばこよりも安全だと考えていることが分かった。

 NJOYのクレイグ・ワイス社長によれば2008年以降、米国での電子たばこの売り上げは毎年倍増し、2013年には10億ドル(約930億円)に達するという。

 米公衆衛生医師協会(American Association of Public Health Physicians)のJoel Nitzkin氏は、従来のたばこによる健康への脅威は、電子たばこなど煙の出ない代替品のおよそ100倍だと強調する。「(従来の)たばこが燃えると生じるタールは、肺の最も細い気管支の内側や、酸素と二酸化炭素を交換する肺胞に残留する。この残留タールは1日24時間、週7日間、喫煙者の一生を通じてそこに残る。電子たばこにはない有害な影響だ」

■いまだ証明されていない安全性

 しかし、正式には「電子ニコチン伝送システム」(electronic nicotine delivery systems、ENDS)と呼ばれる電子たばこの安全性については依然、評価が分かれている。たばこの有害性が明らかになる前にそうだったように、まだ私たちが気付いていない害を健康に及ぼす可能性もある。

 世界保健機関(World Health OrganizationWHO)は、科学的に安全性が証明されていない上、試験では「ニコチン以外の有毒化学物質の存在」が示されており、使用しないよう「強く勧告する」としている。

 欧州呼吸器学会(European Respiratory Society)は今月、電子たばこを喫煙に替わる安全な選択肢に分類することはできないと発表し、その中で、「発がん性のある製品から、同様の別の製品に乗り換えるようなことはすべきでない」という原則を消費者に強調した。

 一方先月、英広告基準局(Advertising Standards Authority)は「ニコライツ(Nicolites)」という電子たばこの広告を禁止した。「この製品に害はないという主張は立証されていない」という理由だった。

 電子たばこの使用によって、非喫煙者がニコチンに病みつきになってしまう危険性や、禁煙できるかもしれない人がニコチン依存から抜け出せなくなる可能性を懸念する研究者もいる。

 フランスで3400人の中高生を対象に行われた最近の調査では、「たばこを吸ったことはないが、ENDSは試したことがある」という生徒は15~16歳で12%、17歳で19%だった。(c)AFP/Mariette le Roux