【11月26日 AFP】雌の愛犬「ジプシー」の遺灰を8年も手元に置いたまま、ウォーレン・ブラックウェル(Warren Blackwell)さんは立ち往生していた。どうやって愛犬のありし日をしのべば良いのか分からなかったのだ。「遺灰を手放すことができなかった。遺灰をどうしたら自分が満足できるか、考えつかなかったんです」

 賢く忠実なスタッフォードシャーブルテリアのジプシーは、まだ4歳だった。ブラックウェルさんが地方から都会へと引っ越して来て間もなく、車にひかれたのだ。その瞬間、ブラックウェルさんは凍りついた。「人工呼吸をして、獣医へ連れて行こうとしたよ。でも、彼女は帰ってこなかったんだ。──死んでしまったんだ、と思うことはしたくなかった。一緒に生きてたんだということを喜びたかった」

 サーカスのベテラン曲芸師で花火師でもある友人のクレイグ・ハル(Craig Hull)さんが、盛大な方法でジプシーを見送らないかと言ってくれた時、ブラックウェルさんはためらわなかった。そして、ハルさんが立ち上げた花火による葬儀会社「アッシュズ・トゥ・アッシュズ(Ashes to Ashes)」の最初の依頼主となった。

「クレイグに提案された時、『ぜひとも一番手になるよ』って答えたんだ」。もうすぐジプシーの安息の地となるシドニーハーバー(Sydney Harbour)で、水面をきらめかせて沈みゆく夕日を眺めながらブラックウェルさんはAFPの取材に語った。「カプセルに収まったあの子が筒の中に入っていくのを見送ったよ。もう、向こうのほうで(打ち上げを)待っている。絶対、大きな音がするはずだ」

■「悲しい思い出を水に流す」代わりに

 ハルさんが花火による葬儀会社を立ち上げようと考えたのは3年前。ジャーマンシェパードと秋田犬の混血種だった「ゼウス」と、ラブラドールと牧畜犬の混血種「ギプロック」を立て続けに失い、人生に「大きな穴」が開いたときだった。

 実は、ハルさんはどの五輪かは明かそうとしないものの、とある五輪開会式で空中曲芸の演技を披露した際に「友人」の遺灰を空からまいた経験があった。そして、自分の愛犬にはもっと華やかな見送り方がふさわしいと思ったという。「『花火師になって、花火で打ち上げてやるんだ』って思ったんだ」

「悲しい思い出を水に流す」代わりに、ハルさんは2010年の大晦日に色鮮やかな花火で愛犬たちをシドニーの空に見送ろうと思い立った。「そんなふうに遺灰を大空にまくことができたら、すごいと思ったんだ。愛犬を見送った天を見上げられるというのは素晴らしい気分だったよ。それで思ったんだ。こんな素晴らしい経験は、他の人とも分かち合えるようにすべきだって」

 花火でペットを見送る葬儀費用は950豪ドル(約8万円)。打ち上げの際には音楽が流され、ケータリングとバーのサービスがつく。打ち上げ1回ごとに4匹のペットが見送られる。「飼い主同士、お互いの愛犬の写真を見せ合って思い出を共有しているよ」

■人も花火でお別れを

 ハルさんはペットだけではなく、人の遺灰を見送る花火も開始しようとしている。人の場合は4800豪ドル(約40万円)から。大晦日などの大花火大会の機会に1人ずつ打ち上げるという提案だが、今のところまだ申し込みはない。

 ゆくゆくは宇宙への遺灰打ち上げも考えている。「誰でもできるわけではなくても、いつか珍しいことではなくなるんじゃないかな。みんな、クリエイティブだから、人と違ったことを色々やりたがるだろう。4つの都市に同時に遺灰をまく、とかね」

 シドニーハーバーのユーカリの木の下にはジプシーを見送りに来た人々が集まっていた。金、銀、青の花火が次々と上がる中、人々は別れの言葉をつぶやき、最後にジプシーの遺灰が入ったカプセルが打ち上げられると歓声があがった。ジプシーの遺灰は赤いハート形の花火に包まれ、ゆっくりと空に消えていった。

 ブラックウェルさんは涙をためながら、ハーバーに広げたピクニックシートの上で飛び跳ね、シャンパングラスを空にかざした。「ほら、すごかっただろ。本当、ジプシーらしいよ」(c)AFP/Amy Coopes