【7月24日 AFP】「誘拐」「自爆攻撃」「奇襲」といった物騒な言葉に直結する山岳地帯で、白地に黄色と緑をペイントし真ちゅうの警笛を誇らしげに掲げたカラフルな三輪車が、目立たないわけがない。

 国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)やアフガニスタンの旧勢力タリバン(Taliban)などイスラム武装勢力の温床と米政府がみなしているパキスタン北西部の部族地域。欧米の旅行者を見かけることは、ここ何年もない。そんな世界でも最も危険な道を旅し、アフガニスタンからパキスタン、イランへと子どもたちにサーカスを見せて回ろうという勇気あるカップルがいる。


■世界一危険なサーカスツアー

 カナダ人ジャーナリストのアドナン・カーン(Adnan Khan)さん(41)と、恋人のドイツ人人類学者アニカ・シュメディンク(Annika Schmeding)さん(25)は、最終目的地のトルコ・イスタンブール(Istanbul)を目指して今月11日、アフガニスタンの首都カブール(Kabul)を出発した。道の悪い所では三輪車をトラックに乗せて運ばねばならない。全長8000キロメートル、気温50度にも達する酷暑の中、1日平均6時間、300キロずつ進む過酷な旅路だ。

 旅の目的は2つある。1つは、1979年の旧ソ連による侵攻以来絶えず戦火に苦しめられてきたアフガニスタンの子どもたちを、サーカスのトレーニングを通じて励ましている慈善団体「アフガニスタン・子どもたちのための移動ミニサーカス(Afghan Mobile Mini Circus for ChildrenMMCC)」のために資金を集めること。もう1つは、パキスタンやイランの難民キャンプや病院、養護施設などに立ち寄り、行く先々でサーカスの技を伝えて歩くことだ。

 アフガニスタン警察に護衛され、一行はカブールから東部ジャララバード(Jalalabad)まで行き、そこからパキスタン部族地域との国境へ向かった。16日、AFPの電話取材に応じたカーンさんは「とうとうパキスタン側に入った。何時間もかかった。なかなか面白かったね。警官が『(観光客の越境に必要な)国境通行証なんて、もう何年も見たことがなかったよ』と言っていた」と語った。

 ここからはスピードを上げて北西部の街ペシャワル(Peshawar)へ、そしてパキスタンの首都イスラマバード(Islamabad)を目指す。地元部族の警察部隊が護衛してくれる手筈になっている。

■アフガニスタンの移動サーカスが担う使命

 カーンさんとシュメディンクさんが移動サーカスの一大ツアーに乗り出したのは、MMCCが資金難に陥ったからだ。サーカス学校は閉鎖に追い込まれ、スタッフは解雇されてしまった。

 MMCCでは2002年以来、タリバン政権下では禁じられていた歌やダンスなどのショーを200万人以上のアフガニスタンの子どもたちに届けてきた。サーカスは子どもたちの集中力や自制心を養い、知的発達を促進するという。

 イスタンブール在住のカーンさんはこの10年間、何度もアフガニスタンを訪れてきた。「MMCCのプログラムはとても良いが、宣伝がうまくない。アフガニスタンで10年もの間、社会のために活動してきたサーカスがあることを、みんなに知ってもらいたいと思ったんだ」

 シュメディングさんも「ジャグリングを習ったり、ステージに立ったりすることで子どもたちは自信を育める。自分を表現する方法も学ぶ。人を信用し、誰かと分かち合うことも覚える」と語る。

 子どもだけではない。MMCCのサーカスには大人向けに、衛生意識の向上や対人地雷への注意を呼び掛ける内容のショーもある。カーンさんは次のように述べている。「アフガニスタンでは、エンターテインメントにはもう1つの使命がある。それは集団セラピー、人々の心を癒すことだ」 (c)AFP/Joris Fioriti