【5月7日 AFP】ナイジェリア北部にある建物の前で、女性たちがあるプログラムに参加するために並んでいた。地元当局者が、2つの結果――結婚と平和――をもたらすと期待を寄せているプログラムだ。ただ夫婦愛については、結婚後にはぐくまれることになるかもしれない。

 このプログラムは、夫と死別した女性や離婚した女性の再婚を目指したもので、イスラム教徒の多いナイジェリア北部の最大都市カノ(Kano)の宗教警察が運営している。


 ナイジェリア北部では、イスラム過激派ボコ・ハラム(Boko Haram、「西洋の教育は罪」の意)の犯行とされる暴力により多くの死者が出ている。当局はこのプログラムによって北部の暴力が減り、さらには子どもたちに安定した家庭を与えることで、さまざまな社会問題が緩和されることを期待している。一般的にこのようなプログラムは反感を買いやすい。しかし地元当局者によると、女性たちのプログラム参加はあくまで自発的なものだという。

「現在のカノの治安状況では、適切な親の指導と保護を受けられない子どもたちが過激な思想に影響されやすくなっている」と、宗教警察ヒズバ(Hisbah)の副長官、ナバハニ・ウスマン(Nabahani Usman)氏は語る。「このプログラムを通じて、子どもたちは母親や義父に保護され、安定した家庭生活を得ることができる。破滅的な要素から子どもたちを救うことは極めて重要だ」

 専門家らは、若者たちの失業やそれに伴うフラストレーションが、ナイジェリア北部を揺るがしている暴力行為を増大させていると指摘する。2009年半ば以降、イスラム過激派によるとされるこうした暴力行為により、1000人以上が死亡した。

■プログラムへの高い関心

 結婚がプラスの効果をもたらすのかどうかはまだ分からない。だが現在のところ、女性も男性も参加意欲が高いようだ。見合い結婚は、サハラ砂漠に近い貧困地区であるナイジェリア北部全域で、ごく一般的に行われている。

 2月中旬にはラジオ放送で、夫と死別した女性や離婚した女性と結婚を希望する男性に参加呼び掛けが行われ、NGO(非政府組織)「VOWAN(Voice of Widows, Divorcees and Orphans of Nigeria、ナイジェリアの未亡人、離婚者、孤児)」を通じて女性たちの所在が確認された。カノで行われた直近の面接では大勢の女性が参加した。

 参加者の1人、アミナ・アダム(Amina Adamu)さん(38)は、ヒゲをたくわえた男性の面接を受けた。アダムさんは、このプログラムのためにヒズバがカノの本部に連れてきた最初の女性たち100人のうちの1人だ。テーブルには他にヒゲをたくわえた男性3人とベールをかけた女性2人が同席し、プラスチック製のイスに座って順番を待つ参加者の名前を呼んでいた。プログラムの参加に際してヒズバは、保健NGOが提供する無料のHIV検査を、申込者に義務付けている。

■崩壊した家庭

 面接では仕事や収入、子どもの人数などの基本的な情報も質問される。とりわけ男性たちは、再婚したい理由を問われる。面接に合格した参加者は、結婚を望む相手を選び、ヒズバの事務所内で見合いを行うことになる。今後、参加者による集団結婚式が実施される予定だが、それまで待てないカップルは自前で先に結婚しても良い。「落ち着いていて、誠実で、面倒見のいい夫が必要。私は結婚に対する保証が必要だから、ヒズバに協力してもらった」と、アダムさんは面接後にAFPの取材で語った。中庭では、男性たちが集まり、面接の順番を待っていた。離婚した男性や、妻と死別した男性、それに独身男性や2人目以降の妻が欲しい男性たちだ。イスラム教では、妻は4人まで認められている。

 男性たちにとっては、もうひとつ重要な要素がある。資金だ。教師で独身のイスマイル・イブラヒム(Ismail Ibrahim)さん(25)は、持参金が高額すぎて結婚することができないと語る。ヒズバのプログラムは持参金の肩代わりをし、さらに家庭を築くための少額の援助もしてくれる。当局はどれほどの金額が支払われるかについて、これまで返答を拒否しているが、カノでの持参金の相場は1万~2万ナイラ(約5000円~1万円)ほどだ。「若い女性と結婚するのはかなり高額だ。だからこのプログラムに参加して、自分の選んだ女性と、支出を抑えて結婚したい」とイブラヒムさんは語った。

■離婚がもたらす諸問題

 カノのVOWAN代表、アルティン・アブドラヒ(Altine Abdullahi)氏は、離婚が同市で問題となっていると語る。だが、ヒズバのプログラムを通じて結婚した男性は、ヒズバの許可なくしては離婚できない。「皆、洋服を変えるように妻を変える。これを阻止するための最善の方策は、ヒズバを通じて結婚をすることだと考えた」。アブドラヒ氏は、カノの離婚件数の多さは「女性たちに自活を強い、子どもたちが父親から何の支援も受けられない」状況を生んでいると語った。

 夫と死別したハジャラ・アダム(Hajara Adamu)さん(48)は、このプログラムを最大限活用したいと語る。 「軽はずみな選択はしない。責任感のある、尊敬できる、大人の男性が欲しい。ここで得られると確信している」。プログラムに参加している男性は、若者から、75歳のムハマド・タクル(Muhammad Tukur)さんまで幅広い。タクルさんは3人目の妻を捜している。「誰にするかは、まだ決めていない。心が穏やかになる女性を探している」とタクルさんは語った。(c)AFP/Aminu Abubakar 代案)