【4月20日 AFP】南アフリカ・ヨハネスブルク(Johannesburg)郊外の集合住宅に住むロバート・チャウケ(Robert Chauke)さん(50)の自家用車は、22人乗りのバスだ。それでも、25歳から44歳まで計6人の妻と、下は生後10週間、上は28歳まで計26人の子どもたち全員が乗ることはできない。

「どの妻もみんな愛しているよ。これだけの大家族を授かったのは神からの恵みだと思う」と、チャウケさんは妻たちに囲まれながら微笑む。大家族は一族の伝統だ。祖父には7人、父親にも4人の妻がいた。長男も既に2人の妻を持つ。

 チャウケさんの妻は6人とも専業主婦。チャウケさんはヨハネスブルク近郊のオレンジ・ファーム(Orange Farm)で居酒屋を経営し、自身もバンドで演奏して大家族を養っている。「家族全員が1つ屋根の下で暮らしている。私たちは1つの幸せな大家族だ」と誇らしげに語る。

 自宅には寝室が7つあるので、妻たちはそれぞれ個室を持ち、順番にチャウケさんと夜を共にする。家事は分担し、互いの子どもたちの世話も助け合う。6人とも、他の妻に嫉妬することはないと言い切る。

■変わる南ア社会、大統領に6人目の妻

 こうした一夫多妻をめぐる議論が南アフリカで再燃しそうだ。ジェイコブ・ズマ(Jacob Zuma)大統領が今週末、長年の婚約者だったボンギ・ンゲマ(Bongi Ngema)さんと結婚するためだ。ズマ大統領の結婚はこれで6回目だが、1人とは1998年に離婚、別の1人が2000年に自殺し、現在の妻は3人。ンゲマさんは4人目のファーストレディーになる。

 南アフリカで一夫多妻は合法で、ズールー(Zulu)やツォンガ(Tsonga)など主要民族の間に浸透している。ズマ大統領はズールー人、チャウケさんはツォンガ人だ。

 だが、近代化とともに欧米化が進み、一夫多妻も減少傾向にある。2010年の調査によれば、南アフリカ国民の4人に3人が一夫多妻に否定的だった。とりわけ女性では83%が反対だった。

 1世帯あたり人数も減少しつつあり、1996年に4.5人だった平均世帯人数は、2007年には3.7人になった。

■一夫多妻は「セーフティーネット」

 それでも、ズールー文化を専門とするクワズルナタール大学(University of KwaZulu-Natal)のヌデラ・ヌトシャンガセ(Ndela Ntshangase)氏は、一夫多妻は現代においても重要な意味を持っていると指摘する。

 もともと一夫多妻は、社会的な問題を解決する手法だったからだという。「特に戦争が多かった時代は、男性より女性のほうが村に残されることが多かった。一夫一妻に固執していては夫も子どももいない女性だらけになってしまっただろう」

 同氏によれば、一夫多妻は女性や子どもにとって「セーフティーネット(安全網)」の役割を果たしている。男性が女性に対して責任を持ち、婚外子を防げるからだ。

 チャウケさんの1人目の妻、ジョセフィーナさんはこの点に同意する。現に、夫に対し自分の妹とも結婚してくれないかと頼んでいるのだ。「わたしも、彼との結婚を人から勧められたの。家族になれば、妹の子どもも一緒に育てられるでしょう」

 チャウケさんにとって、ズマ大統領に4人の妻と21人の子どもがいる事実は、アフリカの伝統を尊重していることを意味する。「大統領に大勢の妻がいたって、何も悪いことはないよ」。チャウケさん自身も、もっと子どもが欲しいという。

「男として、金持ちかどうかは重要じゃない。大事なのは賢いか否かだ。家族を養い、家族が必要とするものを与えられるかどうかが肝心なんだ。われわれの大統領は、それができる男だ」

(c)AFP/Manqoba Nxumalo

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