【4月9日 AFP】その若いオランウータンは柵の間から手を伸ばし、タブレット型端末「iPad」にこぶしをこすりつけて、大好きなアプリを使ってスクリーンに鮮やかな色を描いた。

 数分後、オランウータンのマハル(Mahal)は柵に顔を食い込ませて、長い舌でスクリーンをタップし、お気に入りの曲「きらきら星(Twinkle, Twinkle Little Star)」を再生した。

 間もなく、米ウィスコンシン(Wisconsin)州ミルウォーキー(Milwaukee)の動物園のマハルと他2頭のオランウータンたちは、iPadでもっと胸躍ることを体験することになる――他の動物園や野生保護区のオランウータンたちとiPadを通じて「遊ぶ」のだ。

 同動物園のオランウータンたちは、iPadに表示される他のオランウータンの動画にすでに興味津々。生中継ならばもっと楽しめるのではないかと、飼育係らは期待を寄せている。

「どういう結果になるのか、みんなでわくわくしているよ」と、動物園の霊長類部門コーディネーターのトリシュ・カーン(Trish Kahn)氏は語る。

「オランウータンたちは全然気に掛けないかもしれない。けれど、私が彼らについて知る限り、彼らはそれがリアルタイムであり、他のオランウータンを眺めているんだと理解するのは間違いないと思う」(カーン氏)

■オランウータンの直面する危機の周知に活躍

 同動物園がiPadを導入したのは1年近く前。同園の成功を受けて、非営利団体「オランウータン・アウトリーチ(Orangutan Outreach)」が「Apps for Apes(類人猿のためのアプリ)」キャンペーンを開始し、その支援もあって今では他の動物園でもタブレット端末が導入された。

 キャンペーンの目標は2つ。オランウータンに充実した活動を提供することと、来園者に絶滅の危機にあるオランウータンの保護活動について興味を持ってもらうことだ。

 そのために、同園ではえさ場だけでなく、一般公開エリアでもオランウータンにiPad遊びを提供。ボランティアのスコット・エンゲル(Scott Engel)さんが分厚いガラスごしに、オランウータンたちに動画を見せている。

 エンゲルさんのもとには大勢の来園者が集まり、オランウータンとiPadについて質問を浴びせる。マハルはペンギンの動画が大好きで、マハルの養母のMJは英動物学者デービッド・アッテンボロー(David Attenborough)氏による英国放送協会(BBC)の自然番組を見たがると話すと、来園者から笑いが起きるという。

 また、MJがガラスをたたいてエンゲルさんに動画を催促すると、来園者たちは写真を撮影しようと前かがみになる。そして、ヤシ油農園を作るためにインドネシアの熱帯雨林が焼き払われ、オランウータンの生息地が失われていることを話すと、来園者たちは熱心に聞き入るという。

 同園のカーン氏は、「野生で絶滅の危機にひんしているからこそ、人びととオランウータンが接点を持つことがとても重要」と述べ、「オランウータンがこういった素晴らしい適応力と深い心を持っている驚異的な動物であることを人びとに知ってもらうことが私にとって最も重要なことだ」と語った。(c)AFP/Mira Oberman

【動画】iPadで遊ぶミルウォーキー動物園のオランウータンたち(YouTube/AFPBB News公式チャンネル)