性暴力の標的にされるレズビアンたち、南アフリカ
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【2月13日 AFP】リカンバ・セキソさん(仮名、29)が従兄の部屋を掃除をしていると、従兄が部屋に入ってきた。従兄は戸を閉め、鍵をかけ、リカンバさんを暗闇と恐怖の中に閉じ込めた。そして、かかっていた音楽のボリュームを上げ、リカンバさんの「性的指向を矯正するのだ」と称して性的な暴行を加え始めた。「彼がわたしを暴行したのは、わたしがレズビアンだから。女は女とではなく、男とこういうことをするんだ、と言って」。この従兄に2度も暴行され、リカンバさんは妊娠し子どもを産んだ。
南アフリカのレズビアンたちは、常に女性に対する暴力にさらされている。中でもレズビアンを異性愛者に「矯正」するという口実で、レイプのターゲットにされるのだ。リカンバさんによると「わが家に胸のある男は要らない」と言われ、実の父親にレイプされたレズビアンもいる。
リンデカ・ストゥロさん(25)は4回も襲われた経験を持つ。その都度、反撃したのでレイプはされずに済んできたが、最初に襲われたときは足を折り、1か月入院した。ストゥロさんは性暴力が年々ひどくなっていると感じている。昨年は友人がごみ箱に詰め込まれた遺体となって見つかった。「毎年みんなに同じことを言われる。おまえはレイプされるぞ、レイプされるぞ、レイプされるぞって」。レズビアンはみな処女だと思われており、「美味しい獲物」と見られているのだと言う。
■「警察も守ってくれない」
同性愛者の権利に関する南アフリカの姿勢は、法的な面では評価できる。平等性は憲法で保障されており、2006年には世界で5番目に同性婚を認める国となった。
しかしアパルトヘイト(人種隔離政策)時代、黒人居住区だった地域は今も概して保守的だ。伝統的にも宗教的にも男らしさという概念へのこだわりが強烈に存在し、同性愛はまったくと言ってよいほど理解されていない。
レズビアンたちは家族から追放されるだけでなく、警察にも守ってもらえない。レズビアンに対するヘイトクライム(憎悪に基づく犯罪)に遭ったことを届け出ても、警官は同僚と笑っているだけだ。
その一方で、政府は対策チームを作り、レズビアンに対する暴力が横行する地域を中心に職員たちの教育を行い、性被害の撲滅に取り組み始めた。
「政府も非常に深刻な問題だと捉えている」と話すトラリ・トラリ(Tlali Tlali)法務省報道官は、「ヘイトクライムを犯す者には、いかなる余地も与えるべきではない。わが国の憲法とその価値観を無視するものだからだ」と糾弾している。また、トラリ報道官は「法の執行権限を持つ機関の一部に問題があることは承知している」と警察側の問題点も認めている。
政府の対策チームは、「同性愛者はアフリカ人らしくない」「同性愛者は男性から女性を盗む者だ」といった考え方を変える対処方法を奨励している。
■「伝統的な概念」が性暴力を生む
キリスト教の施設で同性愛者の避難所となっている「iThemba Lam」のブレルワ・パンダさんは、「伝統的な文化のために、旧黒人居住区に住む女性たちは、より犠牲となりやすい。その最たる脅威がレイプだ。さらに、同性愛者への理解がないコミュニティでは、周囲の人たちにその事実を認めさせるという大きなチャレンジにも直面する」と語る。
状況は少しずつ変わりつつあるとは言う。だが、同性愛者への理解があるケープタウン(Cape Town)周辺とは比べものにもならない。
「あそこ(ケープタウン)だったら女同士、人前で手をつないだり、キスをしてもなんでもない。けれど黒人居住区だったところで同じことをすれば、身を危険にさらすことになる」とストゥロさんさんは言う。そこでレズビアンの女性たちは、夜遅くは出歩かない、隙をみせることになるアルコール類は飲まない、女性らしい服や仕草を心がけるといった自衛策をとっている。家族を喜ばせるために、男性と付き合っているレズビアンさえいる。
国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(Human Rights Watch、HRW)は、レズビアンやバイセクシュアル(両性愛)の女性や、性別の自己認識が生来の性と異なるトランスジェンダーの男性が直面している暴力の脅威に対し、南アフリカの法律はまったく意味をなしていないと批判している。
レイプ被害の統計のうち、レズビアン嫌悪によるものがどれほど混ざっているのかは明らかではないが、2010~2010年の1年間に警察に被害の届出があったレイプの件数は、男性の強姦被害者も含めて5万6272件だった。実に9分に1回、レイプが発生していた割合だ。
ケープタウンでは前々週、レズビアンの女性を殺害した男4人に対し、禁錮18年の刑が下った。裁判が何度も遅れた事件だったが、権利擁護を訴える活動家たちは、同性愛者に対する暴力の重罰化の前例となると歓迎している。(c)AFP/Justine Gerardy