【12月2日 AFP】往年のハリウッド俳優エロール・フリン(Errol Flynn)風のペンシル・スタイルから、映画『フラッシュ・ゴードン』のミン皇帝(Ming the Merciless)のような「なでつけひげ」まで、いつもはすっきり顔の男性たちが1か月間、ひげを生やして男性特有のがんへの関心を高め、募金を集めるキャンペーンが世界中で行われた。

 英語の11月「ノーベンバー」とひげ「ムスターシュ」をかけて「ムーベンバー月間」と名付けた運動がオーストラリアの首都メルボルン(Melbourne)で立ち上げられたのは2003年。8年後の今年はカナダ、英国、米国、ニュージーランド、南アフリカ、中東やアジアへも広がり、全世界で昨年の2倍近い約85万人の男性が参加した。

■活動の始まりは30人の仲間から

 最初はメルボルンで友人同士約30人のグループが、試しにひげを生やし際に、前立腺がんに関する啓発と結びつけることを考えた。発起人の1人、J.C氏はこう語る。「口ひげは地球上からほとんど消滅してしまったけれど、昔は僕たちの父親だって、スポーツ選手たちだって生やしていた。だから僕たちも1か月間だけ生やしてみたらどうだろうって思ったんだ。それで、口ひげの復活と男性の健康を結びつけた。口ひげ以上に男らしいものは他にないからね」

 英国では今年、F1ドライバーのジェンソン・バトン(Jenson Button)やサッカー選手のピーター・クラウチ(Peter Crouch)、俳優のスティーブン・フライ(Stephen Fry)らも参加。今年のキャンペーンで集まった募金はこれまでに全世界で4840万ポンド(約59億円)に上った。

「モーベンバー・ブラザー」たちの多くには、ふだん生やしていないひげを生やすことで同僚や友人にからかわれることは織り込み済みで新鮮なスタイルを楽しんでいる。

今年は上唇の上からあごまで口をかこむようにひげを伸ばしたフリーランス写真家のアレクサンダー・ジョーダンさん(23)。去年はペンシル・スタイルのひげにとどめていたが、今年は「もうちょっとハードコアにしたかった」のだと話す。「みんなから好評だよ。自分の彼女以外はね。彼女はあんまり好きじゃないみたい。そういえば今月はあんまり会ってないな」と言うジョーダンさんは、12月1日の夜明けとともにひげをそり落とすつもりだ。募金集めはあまり進まず、30ポンド(約3600円)に終わった。

■男性の健康問題啓発に大きな効果

 しかし、呼び掛け人たちにとって重要なのは募金だけではなく、男性の健康問題に対する世間の意識を高めることだ。そして、このキャンペーンではひげがその一役を担っている。英前立腺がん基金(Prostate Cancer Charity)のオーウェン・シャープ(Owen Sharp)理事長は「11月の間だけ、ひげを生やしている男性たちはそのことについて1日平均3人と話す。1か月で1人の参加者が話す相手は100人にもなり、そうした会話を通じて前立腺がんや精巣がん、それから男性の健康問題全般について啓発活動ができる」とキャンペーンの意義を語った。

 同基金の年間活動資金の半分はこの「ムーベンバー月間」で調達されている。集まった資金はそうした男性特有のがんの研究や、さらに理解を広める活動に費やされる。人生のいずれかの時期にこうしたがんにかかる英国人男性は全体の11%に上っている。(c)AFP/Alice Ritchie