「性介護士」、障害者介護におけるスイスでの論争
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【11月15日 AFP】スイス人男性のジャック・アルノーさんはこの数年間、身体に障害がある人たちが少々の優しさと性的なケアを受ける権利に応える仕事をしてきた。しかし、多くの人たちの目には「性介護士」という彼の仕事が、医療福祉と売春の間のきわどい一線にあるように映る。
■性介護士(セクシュアル・アシスタント)という仕事
50歳で妻と3人の子どもを持つアルノーさんは、スイスの性介護士の中でも珍しく、自分の仕事についてオープンに語っている1人だ。性介護士が法的資格となって8年以上が経過したスイスでさえ、いまだこの話題はタブーだ。
理学療法士の資格を持ち、泌尿器と女性生殖器に関する専門家であるアルノーさんは、誤解されることが多い障害者への性介護について「このテーマに関しては依然、多くの啓蒙活動が必要だ」と言う。「障害のある人たちも同じ人間。夢や期待もあれば、欲望やフラストレーションだってある」。性介護士という仕事はそうしたニーズに応え、ともすれば障害のために性に積極的になるチャンスがほとんどないかもしれない人たちが、そうでない人たちと同様に人間としての性を感じる機会を提供している。
障害があるクライアントに、どのように触れたり触れられたりすれば良いかを伝える場合もあれば、オルガスムに達する介助を行う場合もある。すべての場合で、通常は事前にサービスを受ける障害者のニーズと、身体的に可能なことは何かを長時間かけて評価してからサービスを開始する。
■規定で副業に限定
チューリヒ(Zurich)の歓楽街からは程遠い市の反対側で顧客を迎えるミシェル・グートさんは、ブロンドのエレガントな女性マッサージ師だ。シックで快適なマッサージパーラー、「アンダーナ」の顧客の多くは精神や身体に障害がある人たちだ。
1990年代からマッサージ師を始め、その後、障害者にサービスを提供するために性介護士の法的資格も取ったミシェルさんは、「彼らが求めているのは性的な優しさなんです」と言う。「障害があると、普通の私生活を送ることはなかなか難しい。ポルノを使っている人もいるけれど、性生活についてまったく知らなかったり、経験のまったくない人もいる」
そうした人びとに性体験を提供する訓練を受けているのは、スイスでも数十人しかいない。訓練は、厳格な選抜過程を経た後に専門家組織によって行われる。
性介護士として働くための規定のひとつは、性介護士を本業とすることはできず、副業にとどめるという条件だ。「これを本職にはできないんです。他に本業があることを証明さえする必要があります」と、性介護士の訓練を担当する性教育者のカトリーヌ・アガテ・ディーサンズ(Catherine Agthe Diserens)さんは説明する。彼女は、障害がある人びとの積極的な性活動を支援する慈善団体SEHPの代表でもある。
■性的介護と売春は違う
性介護士はオランダやドイツ、デンマークにもいるが、その他の国、例えばフランスなどではいまだ法的資格が正式に与えられていない。障害者の人権を訴えるフランスのある団体は昨年繰り返し、性介護士に対する認識と、性介護サービスに対する国家助成を訴えた。
スイスでの性介護士の位置は、介護士というよりも売春婦に近く、サービス料金は全額顧客が払う。ミシェルさんは身体に障害がある顧客の場合には1時間162ユーロ(約1万7000円)、身体には障害がない場合には220ユーロ(約2万3500円)を請求している。サービス内容は古典的なマッサージから、自慰行為に相当する「性感帯マッサージ」まで幅広い。ただし、自分は挿入行為は許していないと、ミシェルさんはきっぱりと言った。「良い売春婦を知っていますし、性的介護以上のことまでする介護士も知っているので、顧客が望めばご紹介しています」
売春婦も障害がある顧客を受け付けるが、性介護士のほうが「親や施設の監督など」に受けが良いとSEHPのディーサンズさんは言う。その理由は、売春婦によっては特定の障害の「扱い方が分からない」場合があり、障害のある顧客が慣れるには「時間もコンタクトの手間も」かかるからだという。
公認の性介護士のサービスを利用すれば、どちらの側にとっても、家族にとっても、ぎごちなさが消えるとアルノーさんは言う。「例えば若いダウン症患者の自慰を毎週、お母さんが介助しなければならない状況を許容できますか?」と彼は問う。
しかし、性介護士の役割が今後も汚点扱いされるだろうことは、アルノーさんは百も承知だ。「性介護士としてのわたしの仕事を不快に感じて、わたしの介護を拒絶する人もいる。けれど、良い仕事だと考えてくれる人もいる。僕たちに汚名を着せる人たちはもっと素直になって、もっと性介護について学び、共感を持つべきだと思う」
(c)AFP/Andre Lehmann