【11月11日 AFP】流線型のサングラスに迷彩柄パンツという出で立ちの日本人レスラー鶴園誠(Makoto Tsuruzono)は、相手を挑発しながら無敵のオーラを発していた。試合開始のゴングが鳴ると不運な「胸男」はほとんど何もできず、鶴園のたくましい腕から雨あられのごとく降り注ぐパンチをかわすしかなかった。

 この2人の男たちは車いすに乗っているが、レスラーとしての人生に自分たちの障害が壁になっているとは思っていない。「この障害者プロレスだけは誰にも負けないと言える、言い続ける自信がある」。勝利した鶴園(34)は車いすの上で語る。「どんなにくだらない内容でも、これだけは人に負けないというものがあれば、自信をもって人生を生きていける」

 鶴園も「胸男」も、東京の障害者プロレス団体「ドッグレッグス(Doglegs)」が興業しているWWFスタイルのプロレスに出場するレスラーだ。所属する18人のレスラーには男も女も、障害のある者もない者もいる。精神的な障害から、右足がなく左足も未発達な鶴園のような身体の障害まで、様々な障害がある選手たちを、この大会は引きつけている。

 ある一戦では、盲目の「ブラインド・ザ・ジャイアント」が聴覚障害の相手に立ち向かう。別の試合では、慢性うつの男性がアルコール依存症者と戦う。このように異なる障害がある者同士の多数の対決が繰り広げられる。

■日本人の障害者観に一石

 ドッグレッグス代表、北島行徳(Yukinori Kitajima)氏は、20年前に年2回の興業を開始して以来、反対や抵抗にあってきたと語る。「事務所に電話がかかってくる。不愉快だと。障害者なんて外に出すなというようなことを言ってくる」

 障害者支援を行っていた健常者の中島氏は、日本での障害者の扱われ方に強く異を唱えている。「もともと日本の文化では、障害者が生まれるとずっと座敷の中に閉じこめておくというような文化がある」。しかし「障害者だって欲望がある。金もほしいし女とも付き合いたいし、健常者と同じように自由に生きてみたいんだと。おとなしい羊のような障害者だけじゃない」

「国からもらっているお金だけで、黙っておとなしく生活していればそれで満足なのか?」と中島氏。「プロレスを見せることによって健常者側の意識も変わるんじゃないかと思った」と言う。

 半身不随の男性と女性が殴り合い、蹴り合う試合を初めて見た観客たちの中には、人生観が変わったという人もいる。西東京で行われた大会に集まった200人の観衆の1人、ビジネス・スクールに通うスズキ・タカツグさん(38)は複雑な気持ちを抱いたと言う。「障害のない自分たちも、普段の生活や会社で自分を押し殺しているところがある。本気でぶつかって相手とコミュニケーションとろうとしている彼らを見て、勇気をもらった」

■障害者の自主性が重要

「ミラクルヘビー級」の試合で対戦したのは、首を装具で固定した男性と、四肢に部分的なまひがある36歳の女性だった。リングサイドには医療スタッフが控えていた。

 ドッグレッグスの熱狂的なファンで、子どもの頃から車いす生活を送っているカネシゲ・ヤスユキさん(31)は、「表立って何かをみんなに伝える手法としてはいいものだと思う」と語る。レスラーたちの力強いパフォーマンスが好きで、自分も「機会があればやるかもしれない」と考えている。ドッグレッグスは見る人によっては見せ物のように見えることは分かっていると、カネシゲさんは言う。けれど「障害者の自主性でやっている」ことが重要なのだと強調する。

 障害者インターナショナル日本会議(Japan National Assembly of Disabled Peoples' International)の尾上浩二(Koji Onoue)事務局長は、「社会のステレオタイプを揺さぶることに意義がある」として障害者プロレスを全面的に応援している。「障害者は施設や病院の片隅で生活しているという存在だった。そこから色々なチャレンジをして障害のある体をさらけだして表現する人たちが出てきた。彼らが障害を隠したり、負い目を感じたりすること自体がおかしい」

 ヤノ・マサコさん(63)は、息子の慎太郎さんが初めてリングにあがったのを見た時はきつかったが、「でも障害者プロレスを見てみたら、面白がっている自分がいた」と振り返る。そして障害者をまるで触れてはいけないもののように扱う日本人の接し方が常々、気にかかっていると言う。

 息子がドッグレッグス代表の北島氏に敗北した試合の後、ヤノさんは息子と一緒にビールをすする。そして、息子が負ければ確かに悔しいが、息子のことを強く誇りに思っていると語った。「決して健常者とは同じではない。不利だし不便だ。でもリングの上では対等でいられる」(c)AFP/Harumi Ozawa