【9月17日 AFP】米ニューヨーク(New York)で15日、ウズベキスタンのグルナラ・カリモワ(Gulnara Karimova)氏が新作コレクションを発表し、論争を呼んでいる。ファッションを愛するカリモワ氏はウズベキスタンの独裁的指導者イスラム・カリモフ(Islam Karimov)大統領の娘だ。

 今年のニューヨーク・ファッション・ウィーク(New York Fashion Week)への参加を取り消されたカリモワ氏は、マンハッタン(Manhattan)の高級レストラン「チプリアーニ(Cipriani)」でファッションショーを開いた。しかしカリモワ氏の母国ウズベキスタンで児童労働などの人権侵害が行われていると非難する人たちはこのレストラン前で抗議行動を行った。

 伝統的なウズベキスタンの模様の、流れるようなシースルーのシルクの服を着たほっそりとしたモデルたちが、シャンパンを飲むファッション愛好家たちから喝采を浴びていたレストランの外では、活動家たちがプラカードを掲げ、「カリモワ氏は責任を果たせ」などと叫んでいた。

 抗議行動に参加した教職員組合のアビー・ミルズ(Abby Milles)さんはAFPに、「カリモワ氏が監視の目から逃れることを許してはならない。ファッション・ウィークはカリモワ氏の参加を取り消したが、まさに今、ウズベキスタンでは1日5ドル(約380円)以下で綿の収穫をさせられている子どもたちがいる」と語った。

■ウズベキスタンの抑圧と児童労働

 ファッション・ウィークの主催者は前週、ウズベキスタンの人権侵害の長い歴史を指摘する国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(Human Rights WatchHRW)やその他の団体からの圧力を受けて、カリモワ氏の参加を取り消した。これを機にカリモワ氏に逆風が吹き始めた。

 カリモワ氏の父、イスラム・カリモフ大統領は1989年以降、ウズベキスタンを独裁的に統治してきた。反体制派は監獄に送られ、反体制派の2人が生きたまま釜ゆでにされたという疑惑もある。2005年にアンディジャン(Andijan)で起きた異例の暴動はカリモフ大統領に弾圧され、公式統計によると187人が死亡したとされているが、人権団体は死者は数百人に上るとしている。

 またウズベキスタンは長らく、同国にとって極めて重要な世界有数の綿花産業で児童に強制労働をさせていると非難されている。ウズベキスタン政府はこれを否定しており、6月にはこの非難を「虚偽の当てこすりとでっち上げ」だと述べた。だが、米アパレル大手のギャップ(GAP)やH&Mなど数十の小売企業は、ウズベキスタン産の綿を使った衣料品を仕入れないと宣言した。

■抗議行動は黙殺

 ファッション・ウィークに参加できなくなったカリモワ氏は、タイルフロアと豪華な大理石の柱で有名な高級レストラン、チプリアーニを借り切った。長身のムードあるモデルが、躍動する音楽の中、キャットウォークではなくウズベキスタン風のカーペットの上を歩いた。

 カリモワ氏自身は姿を見せなかったが、カリモワ氏のGULI Creative Labのメンバーが参加した。GULI Creative Labにはおよそ60人のウズベキスタンのデザイナーやファッション専門家が参加している。発表された服は「太古の乾いた風」と名高いシルクロード交易路、そして「古い民族的伝統と現代のウズベキスタンの高級婦人服の特別な共存」に触発されたものだという。

 ショーの中で抗議行動への対応は特になく、抗議行動は黙殺される形になった。ショーに近いある男性は匿名を条件に、抗議活動は「常軌を逸している」と語った。「これは政治とは無関係の、クリエイティブな制作の場だよ。遠く離れた国からやってきた60人の難しい仕事の成果なんだ」と語り、カリモワ氏の服に綿は一切使用されていないと付け加えた。「100%シルクだよ」

 ドライアプリコットやマジパン、糖衣アーモンドなどのウズベキスタンのお菓子とともにシャンパンを楽しんだ富裕層の観客にも心配している様子はあまり見られなかった。

 アーティストのオルガ・パプコビッチ(Olga Papkovitch)さんは、「抗議はどこかよそでやればいいのに。ここでは芸術的なショーをやっているんだから」と話す。「これはアートとクリエイティビティ(創造力)のショーよ。この人たちは、若い人たちが大人になったときに何者かになるように、若者たちを触発しているの」と語った。

 黒の羽毛をあしらった服を着て手の込んだヘアスタイルをした学生のネスリハン・フェラドフ(Neslihan Feradov)さんは、カクテル「ベリーニ」を一口飲んでこう話した。「これ(抗議活動)が続いているという事実は、確かにこの美しい舞台に対する疑問を感じさせるわね。だけど、世の中にはたくさんの腐敗があるのも事実でしょ。コーヒー豆だってダイヤモンドだってそうでしょ」。(c)AFP/Sebastian Smith

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