【9月6日 AFP】シンガポールで最も古い墓地のひとつ、ブキット・ブラウン墓地(Bukit Brown Cemetery)を撤去し、高層住宅を建設する計画に反対する住民たちが、歴史ある墓地の保存を求めている。
 
 別荘地の一角に位置する緑豊かなブキット・ブラウン墓地には、近代シンガポールの黎明期に活躍した華僑の商人たちが葬られており、保存運動は感情的な様相も帯びている。「ブキット・ブラウンにはおそらくシンガポールで最も古い華人たちの墓が含まれている。その意味は大きい」と、シンガポール国立大学(National University of Singapore)のアービング・ジョンソン(Irving Johnson)氏(東南アジア研究)は語る。

 1922年に公式に開設されたブキット・ブラウン墓地の名は、1840年に到着した英国人船主ジョージ・ヘンリー・ブラウン(George Henry Brown)にちなんでいる。「ブキット」はこの島が英国の植民地になる前、また移民によって島の人種構成が変化する前に多数派だったマレー人の言葉で「丘」や「山」を表す。

 現在、シンガポールの人口は500万人を超え、その約74%を中国系の人が占める。富裕国のひとつだが、人口密度でも1平方キロ当たり7126人と世界の最上位グループに入る。

 土地が不足している中で、墓地よりも住宅やインフラなど、差し迫ったニーズを優先しなければならない、というのが都市再開発局(Urban Redevelopment AuthorityURA)の説明だ。全面積86ヘクタールのブキット・ブラウン墓地は将来の住宅用地として確保されているが、その具体的な日程は白紙のままだ。

■40年で200を超える墓地が消滅

 政府のデータなどによれば、1952年には229か所あったシンガポールの墓地は、現在60か所にまで減った。なくなった墓地の大半は撤去され、住宅、道路、工業地区などに姿を変えた。オーチャード・ロード(Orchard Road)にある高級ブティックなどが並ぶ人気のショッピングモール、ニー・アン・シティ(Ngee Ann City)も元は墓地だった。

 さらに60の墓地のうち現在新たな埋葬を受け付けているのは1施設のみで、使用期間も15年に限られており、それを過ぎると墓所は掘り返される。埋葬を必須としない宗教では、掘り起こした遺体を火葬し、地下墓室や自宅に納めるか、海に散灰する。イスラム教のように埋葬を必須とする宗教では、新規埋葬を受け付けている1か所の墓地の小区画に改葬する。

 ジョンソン氏のようにブキット・ブラウン墓地の保存を求める人びとは、シンガポールの多彩な歴史を次世代に伝える具体的な物は、わずかしか残されていないと嘆く。

 民間団体、シンガポール遺産協会(Singapore Heritage Society)のケビン・タン(Kevin Tan)会長は、『わずか40年の間に200以上の墓地が壊された。この島の土地の少なさ考えればやむを得ない場合も多いが、少なくともいくつかは残すべきだ。ブキット・ブラウンは文化的、建築的、歴史的要素が豊富で、自然にも恵まれており、保存する墓地候補として最適に思える』と強調した。(c)AFP/Bernice Han