【7月22日 AFP】中国で、元世界チャンピオンの体操選手が、負傷で若くしてキャリアに終止符を打ったために北京の路上でアクロバット芸を披露して生計を立てていたことがメディアに取り上げられ、社会に衝撃を与えている。

 話題となっているのは2001年に北京で開催された学生の国際競技大会、ユニバーシアードで2つの金メダルを獲得した張尚武(Zhang Shangwu)さん(27)。しかし張さんは、世界チャンピオンに輝いた翌年に腱を痛め、約束されていたアスリートとしての成功の道を閉ざされてしまった。

 張さんが話題になったことで、わずか5歳ほどで親元から離されて特別な学校でトレーニングを積んできたために、選手としてのキャリアを終えても普通の生活に適応する術を持たない中国のアスリートたちの窮状にスポットライトが当たることとなった。

■ チャンピオンからの転落半生

「栄光からどん底へ」を地で行く張さんの実話を新聞各紙が取り上げた日から、張さんの元にはインタビューの申し込みが殺到。さらには仕事の誘いや紹介も舞い込んだ。こうした状況について張さんは「中国では同じ経験をしている運動選手が他にもたくさんいるなかで、今の境遇をメディアや社会に注目してもらえた僕は幸運だ」と、AFPとの電話インタビューで語った。

 体操の訓練のために教育を満足に受けられなかった張さんは引退後、ウエイターや介護士などの職に就いた。しかし、けがのせいで思うように仕事ができず、ついには窃盗に手を染め、5年間、刑務所で服役し、この4月に出所したばかりだ。

 そんな運回りが突如、変化したのは前週。北京の街頭で体操演技を披露して身を立てている人物が元学生チャンピオンの張さんであることに見物人が気づき、一斉にメディアが取り上げた。その後は、リサイクル事業で財をなした大富豪の陳光標(Chen Guangbiao)氏からも仕事をしないかという申し出があったが、今はインタビューに忙しく、次に何をすべきかを考える時間がないと張さんは言う。

 一方、AFPが国家体育総局や、張さんの出身地である河北(Hebei)省のスポーツ担当部署に取材を申し込んだところ、どちらからもコメントは得られなかった。

■ 張さんの願い

 それでも張さんの劇的な人生の変遷は中国市民の想像力に強く訴えかけ、元アスリートに対する政府の責任を問う声も広がり始めた。これこそ張さんがもう一度、チャンピオンの頃とは異なる形で得た評判を利用して解決したいと願っている問題だ。「皆に知られていない引退選手は大勢いる。何のスキルも持っていない元選手たちは、仕事を見つけられないでいる。しかし、わが国は引退した後のアスリートの生活支援をしていない。だから、僕は自分が得た発言力を利用して、社会の注目を、この問題に集めたいのです」(c)AFP/Marianne Barriaux