【7月19日 AFP】ツイードの一張羅を着込んで、もみあげと口ひげがつながった「サイドバーン」のひげをいじりながら、パイプをくゆらす人たちが16日、ロンドン(London)中心部の緑豊かな一角に集まった。

 古風なイングリッシュジェントルマンたちのための年1回のイベント「チャップ・オリンピアード(Chap Olympiad)」の参加者と観客たちだ。集まった数百人の男性の「チャップ」と女性の「チャペット」たちはパイプの煙をくゆらせ、執事に注文をして、カクテルをがぶ飲みした。

■専門誌主催のイベント

 このイベントは、イングリッシュジェントルマンとその風変わりな振る舞いや礼儀正しい態度、一分の隙もない着こなし、ひげへの情熱を称賛する隔月誌「チャップ(The Chap)」が毎年夏に行っている。雑誌はことしで12年目。読者は1万人に達した。

 チャップ誌編集長でこのイベントを主催したグスタフ・テンプル(Gustav Temple)氏(46)は「スポーツが嫌いな人のためのスポーツの日さ」と語る。「パイプにタバコを詰めたり、ズボンにプレスをかけたり、ドライ・マティーニを作ったりすることに1日の大半を使ってるチャップたちに、競い合う機会がないなんて不公平だろ?」

 競技は10種目。「パイプアスロン」はパイプをくゆらせながら散歩し、自転車に乗り、使用人に運ばれる競技だ。他には「執事いびり」、「アイロン台サーフィン」、「ひげレスリング」などの種目もある。

「卒倒コンテスト」は、「レディーをうっとりさせて気を失わせなければならない。手段は問わない」という競技。

 商品を買うために外国人に向かって叫ぶ競技の後は、傘とブリーフケースだけを武器に自転車に乗って1対1のバトルを行う「傘の一騎打ち」で幕を閉じる。

■好きな部分を取り入れて楽しむ

「チャップになるためには、いかにも古風なイングリッシュジェントルマンの特徴のなかから、風変わりな振る舞いをしたり、昼食前にカクテルを飲んだり、優美に着こなしたり、レディーに礼儀正しくなったり、といった自分たちの好きな部分を取り入れるんだよ。男性の召使いをむち打ったり、動物を戦わせるような血なまぐさいスポーツとかは全部、放っておけばいいのさ」(テンプル氏)

 ロンドンのベッドフォード広場(Bedford Square)でのお祭り騒ぎを大いに楽しむチャップたちは、使い込んだスーツケースを引いて歩き回り、紅茶とスコーンを味わい、帽子を持ち上げてあいさつし、モノクル(片メガネ)をみがき、蓄音機を回し、シャンパンのコルクを飛ばし、甘い香りのするパイプの煙を一帯に漂わせた。

 一方、チャペットたちの道しるべとなったのは、自称「群を抜いて身なりの良い、だがいつも礼儀正しいとは限らない」レディーたちの集団「ビンテージ・マフィア(Vintage Mafia)」だった。

■よみがえる英国紳士魂

 イベント中ににわか雨が降ったものの、気合いの入った参加者たちはびくともしなかった。

 テンプル氏によれば、英国が道を踏み外したのはロック・アンド・ロールのころだと言う。流行に対して過剰に敏感な若者文化が、社会から切り離されてしまったというのだ。

 だがテンプル氏は、すべてが失われたわけではないと信じている。洋服ダンスの一掃から始めれば良いのだ。デニムや化学繊維の衣類を全部捨ててしまえば良いのだ。

「(ジェントルマンの)服を着てしまえば、行動が変わるよ。もうパブでけんかに巻き込まれたり、サッカーの試合を見に行ったりはしなくなるだろう」と、テンプル氏。「気づいたら、ビールとチップスから離れて、マティーニとパイプに歩み寄ってるだろうね」

 テンプル氏は、「パイプがあると、きびきびとした1940年代調で、天下国家を論じたくなるよ」と続ける。「男はパイプを持つと、チャップになった気がするのさ」

(c)AFP/Robin Millard

【参考】チャップ誌のサイト(英語)