【7月8日 AFP】18世紀に生まれ、お決まりのストーリー展開ながら、今も大量に売れている女性向けの官能小説。しかし、官能小説はセックスやオルガスムについて誤った認識を与え、女性たちの性的・精神的な健康に有害だと、男女関係に関する専門家が警告している。

 英国の作家でカウンセラーのスーザン・キリアム(Susan Quilliam)さんは「官能小説のストーリーを読者が信じてしまうのは問題だ」と断言する。カウンセリングの現場では、依頼者に対して「本を捨てて、現実を見ましょう」と言うことが、最も親切で賢いアドバイスである場合もしばしばあると言う。

 6日の専門誌「家族計画と生殖医療」に掲載されたキリアムさんの報告によると、官能小説のうちコンドームの使用が登場するものは、11.5%しかない。そればかりか「官能小説では、女性のほうが『2人の間を隔てるものは要らない』などと言って、コンドームを拒否するシーンがよく出てきます」。健全な性行動にとって官能小説は障害となっているという指摘だ。

■妊娠=愛の証明ではない

 おまけに典型的な官能小説は、「危険な目にあったヒロインがヒーローに助けられ、結婚生活の中で献身的愛情を固めるためにセックスによるオルガスムに喜んで身を投げ出し、何の問題もない妊娠を果てしなく繰り返すという筋書き」で終わる。

 官能小説のために公正を期せば、最近ではストーリーも幅が広がっているとキリアムさんは言う。しかし、たとえそうであったとしても、性の悦びや男女関係の浮き沈みといった部分になると、官能小説の描写はあまりに貧弱なのが嘆かわしいという。「女性たちに気づいてほしいのは、『目覚めさせられる』欲望ではなく、自分自身の欲望です。初体験は完全に悦びだけに満ちたものではないし、挿入によって安心感のあるオルガスムが得られることもないでしょう。けれど、それで女性としての存在意義がなくなるわけではなく、愛情やユーモアによって物事が大幅に改善するということも分かって欲しい」

 また「妊娠と子育てについても、軽々しく考えないでと強調したい。男女のつながりの強さの証として、状況を省みずに妊娠することは思いとどまって欲しい」とキリアムさんは語った。

 キリアムさんの引用したデータによると、小説全体の売上げのうち官能小説はほぼ半分を占めており、熱心なファンは月に30作品も読むという。しかしこれだけ人気のあるジャンルにも関わらず、読者への影響が調査されることはほとんどないと、キリアムさんは懸念している。(c)AFP