【6月4日 AFP】多くの末期患者の自殺をほう助し、「死の医師(ドクター・デス)」と呼ばれた米病理学者、ジャック・キヴォーキアン(Jack Kevorkian)氏が3日、米ミシガン(Michigan)州の病院で死去した。83歳。腎臓や心臓の疾患で入院していた。脚にあった血栓が心臓に達したことが死亡の原因とみられる。

 キヴォーキアン氏の弁護士、メイヤー・モーガンロス(Mayer Morganroth)氏は、「平和な死だった。痛みはなかっただろう」と述べた。

 モーガンロス氏によると、キヴォーキアン氏は延命処置を受けなかった。モーガンロス氏は、キヴォーキアン氏のめいのアバ・ジャヌス(Ava Janus)さんとともに、キヴォーキアン氏の最期に立ち会ったという。一般向けの追悼式を行う予定はない。

■死ぬ権利、終末医療のあり方 多くの議論を起こす

 キヴォーキアン氏は、130人の自殺に積極的に協力したことを自認している。全米でテレビ放映された、そのうちの1人の男性の自殺のほう助で殺人罪に問われ、8年以上服役した。

 キヴォーキアン氏の「自殺装置」や、患者たちが同氏に死をせがむ姿を収めたビデオなどの公開により、米国では末期患者の苦痛への対処方法をめぐる倫理問題が巻き起こった。

 キヴォーキアン氏のもとを多くの人びとが訪れ、死を望んでいるという絶望的な現実を前に、「死ぬ権利」の必要性を認識する人びとも増えた。

 また、末期患者が自らの余命をよりコントロールすることのできる医療として、ホスピスケアを活用する動きが広がった。医療のあり方も、医療介入的な立場から、苦痛を管理する方向へと変化した。

 その一方で、キヴォーキアン氏は、遺体を病院や、公園、空きビルに置き捨てるなど奇異な行動もみられ、多くの人々から反感を招いた。1998年の会見では、自殺をほう助した男性の腎臓を振りかざし、臓器移植を示唆して「先着順だ」と語った。

■今もなお賛否両論

 キヴォーキアン氏は2007年、自殺ほう助に関与しないことに合意し、釈放された。だがその後も世論の注目を浴び続けた。

 米ケーブルテレビ局HBOは2010年、キヴォーキアン氏を題材にしたドラマ「You Don't Know Jack(君はジャックを知らない)」を放映し、キヴォーキアン役の主演のアル・パチーノ(Al Pacino)はエミー賞(Emmy Award)を受賞した。

 アル・パチーノ氏は、ドラマ放映前の米紙ニューヨーク・タイムズ(New York Times)のインタビューで、「(キヴォーキアン氏は)彼のもとを訪れた大半の人を追い返した。それに金はとらなかった。患者たちを、自分が殺す相手としてはみていなかった。苦痛を取り除くことのできる患者としてみていたんだ」と語っていた。

 米世論調査企業ギャラップ(Gallup)による2011年の「価値観と信念」調査では、最も賛否両論のある文化的問題として、医師のほう助による自殺が浮上した。米国人の45%は倫理的に許容できるとする一方、48%が倫理的に正しくないと考えており、今も意見は二分されている。(c)AFP