【4月1日 AFP】殺風景な刑務所の中、魅惑的な鳥のさえずりが聞こえる。全身に入れ墨をしたバーナード・ミッチェル(Bernard Mitchell)受刑者(41)が、アフリカン・グレイ・パロット(オウムの一種)の赤ちゃんに愛情たっぷりのキスをしているところだ。

 殺人を犯して収監されたミッチェル受刑者は、ひなの保育器とケージが置かれた独居房で、慈しみのまなざしで温かいかゆを与える。「この子は僕を母親だと思ってる。僕の子どもみたいだよ」

 ここは南アフリカ・ケープタウン(Cape Town)にあるポールズモア(Pollsmoor)刑務所。彼は受刑者更正プロジェクトの一環として、鳥のひなを育てている。「ひなが僕に触れるんだ。こんなぬくもりはこれまで経験したことがなかったよ」とミッチェル受刑者。「僕は以前はとても攻撃的な人間だった。ナイフで人を刺すなんて朝飯前だった。ところが鳥たちは、僕に忍耐を教えてくれたんだ。まず彼らを愛さなければならない。そして何から何まで世話をしなければならないんだ」

 14歳の時から刑務所を出たり入ったりの札付きのワルだった彼は、今やプロジェクトの責任者だ。プロジェクトに参加する受刑者たちは毎日、自分が受け持つひなたちの体重を計り、日誌に記録し、2時間ごとに餌を与える。このような日課は羽が生えそろうまで続けられ、その後は鳥を愛する人々にペットとして販売される。

■目的意識の芽生え

 このプロジェクトは、「動物は最も凶悪な犯罪者でさえも更正させる力を持っている」と信じる刑務所幹部のヴィカス・グレッセ(Wikus Gresse)氏の発案によるもので、1997年からスタートした。

 実話を基にした1962年のバート・ランカスター(Burt Lancaster)主演映画『アルカトラズの鳥男(Birdman of Alcatraz)』をほうふつとさせるが、受刑者はまさに刑務所内で鳥を介抱したこの主人公のように、目的意識と生の尊厳を見いだしつつある。

 今では、プロジェクトに参加したいと言ってくる刑務所が後を絶たない。鳥を売ったお金は親代わりとなった受刑者に還元されるほか、新たにひなを購入するのに使われる。ひなを育てる受刑者は、ミーティングを行うといったスキルを学び、独居房という特典が得られる。

■「彼らのことは忘れない」

 鳥たちはストレスの多い刑務所暮らしにぬくもりを与え、受刑者に劇的な変化をもたらしている。レント・キンド(Lento Kindo)受刑者(31)は、鳥の腹をなでながら「(鳥を)手放すのは断腸の思い。自分の赤ちゃんを誰かにあげるようなものだよ」と話した。

 レスリー・ジェイコブス(Lesley Jacobs)受刑者(37)は、腕に載せたボタンインコの仲間2羽を見つめながら、「鳥たちがいてくれるから刑期の長さなんて気にならない。鳥はすてきだ。僕はこの2羽と恋に落ちたんだ。彼らがいなくなっても毎日想い続けるよ」とつぶやいた。

 攻撃性や激しい怒りは影をひそめ、看守への暴力も減っている。

 ある看守は、「(ひなを育てた)受刑者は人生を前向きにとらえるようになる。出所後も良い影響を与え続けている」と話す。出所後、動物病院や鳥の繁殖施設で働き始めた受刑者もいるという。

■「人間にも同じように接することができる」

 受刑者は、新たな飼い主から手紙をもらうことも多い。先のミッチェル受刑者が、小さなひなを無事育て上げたことへの達成感とプライドを感じる瞬間だ。鳥から学んだことを外の世界でも実践できると自信を持っている。「人間1人1人、しゃばの人間に対しても、(鳥たちに接したように)接することができると思っているよ」(c)AFP/Justine Gerardy