【2月15日 AFP】韓国ソウル(Seoul)中心部のビジネス街。ここでは午後8時を過ぎても、ほとんどのオフィスビルで煌々(こうこう)と明かりがついたままだ。

 多くの先進国では勤務時間は午前9時から午後5時までというのが常識だが、韓国の会社員たちにとっては夢の話だ。韓国企業では10時間労働が当たり前で、それからさらに残業までしている。

「少なくとも週4日は残業している」と会社員の李さん(30歳)はいう。しかも、多くの企業で残業代は支払われないという。それでも、多くの人びとは定時が過ぎてから少なくても30分から1時間、時にはそれ以上、残業している。

 ひたむきに働いて戦後の極貧状態から脱し、経済的繁栄を達成した韓国では、遅くまで働くことに倫理的使命を感じる人びともいる。一方、上司よりも先に帰れば、昇進機会を逃すのではと恐れて定時後まで残る人も少なくない。

■成長の余地と精神性が育んだ過労文化

 いかなる理由であれ、経済協力開発機構(OECD)の加盟国30か国の中で、韓国人が最も長時間働いていることは事実だ。2009年のOECD統計によると、韓国人の平均就業時間は年2243時間、週46.6時間で、日本人よりも年500時間、ドイツ人よりも同900時間長く働いている計算になる。

 しかしながら、国内総生産と労働時間を比較したOECDの生産性統計をみると、韓国は30か国中、最下位から3番目となっている。

 韓国の労働省は、労働時間を短縮すれば生活スタイルと生産性の双方が向上する可能性があると奨励しているが、長年染み付いた習慣を変えるには時間がかかる。

「韓国経済にはまだ成長の余地がある。そして韓国人には挑戦の精神と、なるべく早く仕事を仕上げようという民族性が備わっている。この二つの要素が組み合わさって、韓国特有の働き過ぎ文化が形成された」と、梨花女子大学(Ewha Womans University)の梁潤(ヤン・ユン、Yang Yoon)教授はAFPに語った。

■残業が普通な高度成長期世代の上役

 そして韓国では通常、従業員が長時間労働に苦情を言うことはない。

 電器メーカーに勤務する申さん(29歳)は、「遅くまで働くのは理解できる」と話す。自分も残業してその日の仕事をその日のうちに終わらせている。社内の序列や、残業は美徳だと尊ぶ意識が、より下の社員を夜遅くまでデスクに向かわせているのだという。「日本の高度成長期のように、韓国経済の成長期を経験した年配世代にとっては、残業が普通のこととなっているからだ」と梁教授は指摘する。

 会社員の金さん(29歳)も「時計が退社時刻を指していても、上司が残っているのに帰るのは難しい」と同意する。金さんには以前、退社時間の直前になると、決まって大量に仕事を言いつける上司がいた。この上司に金さんが退社許可を求めると「何で、そんなに早く帰るんだ?」と言い返されたという。

■ようやく導入された週40時間労働制

 韓国の労働省は2004年、労働時間を週40時間に制限する政策を、まずは従業員1000人を超える大企業に導入すると発表した。徐々に対象を中小企業に拡大し、前年12月には2011年7月より20人未満の企業も対象に含めると発表した。これによって最終的には30万社、従業員200万人が週40時間労働の対象となる。

 労働省のチョ・ウォンシク(Jo Won-Shik)氏は、AFPの電話取材に対し「韓国の労働時間はOECD加盟国の中では最長だが、この政策が導入されば、生活の質や仕事の効率向上が期待できる。通常、生産性と労働時間は反比例するので、労働時間の短縮は高い生産性につながるはず。さらに、余暇時間が増えることで生活の質も向上するだろう」と語った。

 それだけではない。労働時間が短くなれば、韓国が直面している慢性的な低出生率が改善される可能性もある。

 保健福祉家族省は前年1月、月に1回、午後7時半に全館消灯する日を設けた。出生率を上げるために職員を早く帰宅させて、子づくりに励んでもらおうという趣旨だ。

 梁教授は、仕事中毒文化もそのうち消滅すると楽観的だ。「韓国経済が頂点に達する頃、会社の重要ポジションにいるのは今の若い世代たちだ。そうすれば、残業文化はいずれなくなるだろう」

 だが、会社員たちは、その時をおとなしく待っているわけにはいかない。

 申さんは、会社の残業状況は大分改善されたと言う。しかし、さらに無意味なサービス産業を減らすためには、政府の積極的な介入が必要だと考えている。

 商社に勤める全さん(仮名、25歳)も、残業には否定的だ。だが、あふれるほどの仕事を抱えており「いつまでたっても仕事が終わらない」と嘆く。(c)AFP/ Nam You-Sun