【2月9日 AFP】パキスタンでは、欧米文化を目のかたきとするイスラム原理主義の過激派との武装闘争が続く地域がある一方で、都市部では都会的なお洒落を楽しむ「メトロセクシャル」な男たちが静かに台頭し始めている。

 ゆったりとした木綿の民族服シャルワール・カミーズ姿の男たちでひしめき合うパキスタンの都会の町並みの中で、続々と男性向けエステサロンが出現しているのだ。パキスタンでは依然として、経済は低迷し貧困が蔓延しているにも関わらず、都会の富裕層は富を増やしており、余剰金を化粧やエステに注ぎ込むようになったためだ。

 「メトロセクシャル(メトロポリタン・ヘテロセクシャルの略、洗練された都会的なファッションやライフスタイルを楽しむストレートの男性を指す)」と呼ばれる、こうした裕福な男たちの数は、パキスタンで着実に増えつつある。

 その理由は2つあると、広告代理店のハッサン・キルデ・バジュワ(Hassan Kilde Bajwa)さんは分析する。「金融部門の規制緩和により自由に使えるお金が増えたこと」、そして「メディア数の爆発的な増加により、情報量が増えたこと」だ。15年前まで、パキスタンにはテレビ局は2つしかなく、FMラジオ局も存在しなかったのだ。

■ 植毛手術は大繁盛、アクセサリーは「タブー」

 古都ラホール(Lahore)にある植毛手術専門クリニックも、「メトロセクシャル」ブームの恩恵をうけて繁盛している。同クリニックのアフマド・チョードリー(Ahmad Chaudhry)医師は、昨年の来院者数は前年から30%以上も増えたと話した。広告などを出して宣伝したことが大きかったという。

 植毛手術に訪れた43歳の男性は、「毛髪がないことは弱みだったが、植毛手術を受ければ、自分に自信が持てるようになる」と話してくれた。この男性は、5時間の植毛手術費用に1350ドルを支払ったという。

 その一方で、チョードリー医師は「治安が良ければ、もっと順調なのに」と残念がる。

 首都イスラマバード(Islamabad)でエステサロンを5年間、営んでいるレバノン人のオーナー、マイケル・カナーン(Michael Kanaan)さんも、男性が美容に励むようなった変化を肌で感じている1人だ。

 「みんな、かっこよく見られたいんだ。容姿が良くなれば、気分も良くなる」と話すカナーンさんは、容姿に気を配る男性が増えたことは、外国への旅行経験者の増加に起因しているのではないかと考えている。

 パキスタンでは伝統的に美容とは女性が飾り立てることを意味してきたが、部族文化が根付いている国境地帯では、男性が髪とひげをヘンナ(植物の染料)で染める伝統があることから、男性の美容も社会的に受容される素地があるのだという。

 それでも、先のバジュワさんによると、男性の美容には超えてはいけない一線があるという。例えば、スカート履きで耳にはピアス、腕にはブレスレットといった人気サッカー選手、デビッド・ベッカム(David Beckham)のようなファッションは、欧州の男性では普通だが、パキスタンのメトロセクシュアル男性の間では、ほとんどみられない。耳に限らず体のどこであれピアスはご法度で、アクセサリーの着用も、依然として社会的タブーなのだという。(c)AFP/Claire Truscott