【2月3日 AFP】パンダ舎のドアは閉められ、明かりは落とされた。さまざまなアングルから見下ろしている何台ものビデオカメラの向こうでは、大勢の人間たちが凝視している。  ワシントンD.C.(Washington D.C.)にある米国立動物園で飼育される2頭のジャイアントパンダ、メスのメイシャン(Mei Xiang)とオスのティアンティアン(Tian Tian)が1年ぶりにデートをしようとしていた。メイシャンが受胎できるのは1年のうち数日間だけなため、関係者は期待を込めて2頭を見守る。「これぞパンダの繁殖シーズンだ。すべてのことは2~3日の間に凝縮されている」と同園の繁殖生理学者ピエール・コミッツォーリ(Pierre Comizzoli)氏は興奮している。  メイシャンは2週間ほど前から発情期が近いことを示す鳴き声をあげ始めた。1月末には中国四川(Sichuan)省臥龍(Wolong)のパンダ保護研究センターから専門家が招かれた。そして前週末、1年間ほぼ1日おきに別々の飼育舎で過ごしてきた2頭が、近づきあうことが許された。メイシャンのホルモンレベルを測る科学者、性的衝動が暴力に転じた場合に備える獣医、そして行動学の専門家が「自然に何かが起きる兆候」を探して観察を続ける。  この2頭は2000年以降、他のパンダとは交尾させていない「長年の連れ合い」で、05年にはオスのタイシャン(Tai Shan、泰山)が誕生したが、この時は人工授精だった。 ■自然繁殖めざし涙ぐましい努力も  今年のシーズン前には2頭に運動をさせて、スタミナと筋力をつけさせた。ティアンティアンは力強く立てるよう後脚を鍛えさせ、メイシャンは体位を改善させるべく飼育舎の大きな丸太に寝転がることを覚えさせた。「最高の体調に導き、自然繁殖を目指すためにはできることは何でもする」と飼育係のブランディー・スミス(Brandie Smith)氏は言う。  この2頭のカップルしかいないワシントンへ、90頭ものパンダを飼育する四川のセンターから駆けつけたタン・チュンシャン(Tang Chunxiang)氏も頼りになる。自然受胎を妨げてしまう体位の誤りを正確に把握することができるからだ。  しかし、ティアンティアンは13歳になるものの、いかんせん経験に乏しい。「基本的に実践不足と自信不足です」とコミッツォーリ氏はオスのパンダをいたわる。  あらゆる努力が払われたが、果たしてメイシャンが受胎するかどうかは定かではない。そこで中国と同様、1月29日と30日に人工授精も行った。しかも自然交配の試みを重ねた結果、ティアンティアンからの精子の採取がうまくいかず、05年に採取して冷凍保存していた精子を使った。 ■妊娠の確認も一苦労  そして、妊娠したかどうかを確かめるのもひと苦労だ。  パンダの妊娠期間は90~185日程度だが、妊娠初期はホルモンレベルに変化はない。超音波診断も難しい。コミッツォーリ氏によると「巨体で重く皮膚が厚い。なのに子宮は本当に小さく、中の胎児は豆粒のようだ。ほかのほ乳類と比べて確認はずっと難しい。ようやく分かるのは妊娠後期になってからだ」と言う。  パンダは絶滅の危機にある希少動物で、野生では主に中国に1600頭が残るだけだと科学者たちは考えている。そして世界中の動物園にいるのが300頭だ。  メイシャンもティアンティアンも研究のために、2000年から10年の期間で中国から米国立動物園へ貸与されているパンダだ。先ごろこの契約は5年間延長されたが、子どもが生まれなければ、もっと若いカップルと「出張」を交替することになるかもしれない。(c)AFP/Kerry Sheridan