【1月25日 AFP】米国で出版された中国系米国人による育児本、『Battle Hymn of the Tiger Mother(母トラの戦いの歌)』が、大論争を巻き起こしている。

 同書を執筆したのは、米エール大(Yale University)法学部教授のエイミー・チュア(Amy Chua)さん。今月、米ウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)に本の一部が掲載され、一躍時の人となった。

 フィリピンから米国に移住した中国系の両親を持つチュアさんはこの本の中で、彼女と夫がどのようにして2人の娘を「中国流」に育てたかをつづっている。

■「中国流」スパルタ教育に非難殺到

 チュアさん夫妻は娘たちに学校では常にトップでいることを要求し、お泊まりやテレビは許さず、強制的にピアノやバイオリンのレッスンをさせた。あるエピソードでは、ピアノの練習をさぼった娘を寒い戸外に立たせたり、パーティーの最中に人前で娘を「クズ」と呼び、場の空気を凍り付かせたりしたことを紹介している。

 ウォールストリート・ジャーナルに掲載された抜粋によると、チュアさんは「『チャイニーズ』の親にとって、子どもが標準以下のパフォーマンスしかできなかったときに取る手段は、叱って、罰して、屈辱感を味わわせること。ほとんどの親は子どもに最も良いことをしてあげたい。これは誰もが同じだけれど、中国人はその方法が違うだけ」と記している。

 反響はすさまじく、チュアさんの元には「虐待モンスター、中国に帰れ」などの誹謗中傷がメールで殺到。中には殺害の脅迫まであり、チュアさんは「ここまでになるとは思っていなかった」と米誌ニューズウィーク(Newsweek)に語っている。

■中国での反応は

 標準中国語版が出版されたばかりの中国ではそれほど物議を醸していない。北京(Beijing)にある首都師範大学(Capital Normal University)の労凱声(Lao Kaisheng)教授(教育学)は、中国社会が激動するなかで育児の方法も変化を続けており、この本が中国人の琴線に触れることもあるかもしれないと語る。

 同教授は、一人っ子政策により現代の子どもは甘やかされていると見られがちだが、市場経済化の中で競争は厳しくなっており、子どもへのプレッシャーはさらに重くなっていると考えている。

「都市部では、生活環境は良くなりましたが、プレッシャーも増えました。親だけでなく、その家族や祖父母の願いが、たった1人の子どもの肩にのしかかるのです。昔の親たちは悪い成績に対して今より寛容でした」

 中国のインターネット上ではチュアさんの育児法に賛同する人もいるが、一部に「やりすぎ」との声も上がっている。人気ポータルサイト「新浪網(sina.com)」のマイクロブログでは、このような書き込みもあった。

「これらすべての方法を『中国流』育児法と呼ぶのは間違っている。わたしにも子どもがいる。親は、自分の子どもがよい人生を歩めるよう努力する責任があるが、中国では古くからバランスも大切だとされてきた。中国は進化しているのだから、今まで通り『中国流』ですべてをくくることは誤りではないか」

(c)AFP/Dan Martin