【1月9日 AFP】2012年度から中学校で柔道などの武道が必修となる。その一方で学校での柔道の練習中に死亡する子どもの数は年平均4人以上というデータがあり、安全対策が十分なのか疑問視する人もいる。村川義弘(Yoshihiro Murakawa)さんもその1人だ。

 滋賀県の中学校に通っていた村川さんのおい、村川康嗣(Koji Murakawa)くん(当時12)は、2009年7月に過酷な練習が原因で死亡した。康嗣くんにはぜんそくの持病があり、入部の際には母親が学校側にその旨を伝えていた。

 しかし生徒たちの話によると、康嗣くんは事故当日すでに疲れ果てていたにもかかわらず、年上の生徒と顧問を相手に乱取りをさせられた。最後に投げられた後に康嗣くんは意識を失って重体となり、その1か月後に死亡した。

 村川さんは「要因は複数ある。(指導者の質の問題として)まず、医学的に無知である。事故が発生したときどのようにしたらいいか知らない人がいる」と語り、子どもに十分な休憩を与えないなど安全への配慮が足りない指導者が一部にいると指摘した。

 村川さんを含む有志は前年3月、「全国柔道事故被害者の会」を設立。学校で柔道を教える際の安全指針を作るよう政府に求めている。

■27年間で110人が死亡

 愛知教育大学(Aichi University of Education)の内田良(Ryo Uchida)講師の調査によると、学校での柔道の練習で死亡した生徒の数は、1983年からの27年間で少なくとも110人に上る。平均すると1年に4人以上の計算になる。最近も2010年11月に6歳の男児が死亡するなど、2009~2010年だけで13人が亡くなっている。内田氏によると、投げ技など柔道特有の技によって亡くなるケースが多いという。
 
 事故当時15歳だった息子が脳障害を負った小林泰彦(Yasuhiko Kobayashi)さんと恵子(Keiko Kobayashi)さんの夫妻は、柔道稽古中に発生した重大事故の徹底的な原因究明がなされていないと指摘し、必修化に向けた政府の準備は十分なのか疑問だと語る。

「こんなに子どもたちが死んでいても、刑事事件で立件されたことは今まで一度もない。責任をとる人がいままで皆無だった」(小林泰彦さん)

■柔道人口世界一、フランスでの死亡事故は皆無

 フランスは世界最大の60万人の柔道人口を誇り、その75%は14歳未満の子どもたちだが、フランス柔道連盟のジャン・リュック・ルージェ(Jean-Luc Rouge)会長は、フランスでの柔道の死亡事故は聞いたことがないと語った。

 ルージェ氏はAFPの電話取材に対し、「もちろんスポーツなので多少のけがはある。でもフランスでは家族全員が柔道をすることができる」と述べた一方、日本の柔道選手の中には「軍のコマンド兵のようなアスリートもいる」と語った。村川さんも、「子どもたちは殴られて怖いから休ませてくれと言えない」と述べ、子どもに対する「軍事教練的な」訓練を批判する。

 一方、全日本柔道連盟(All Japan Judo Federation)医科学委員会のスポーツドクター、新原勇三(Yuzo Shinbara)氏は「柔道で子どもが死ぬことで心を痛めているのは全柔連だ」と語り、いじめまがいの練習を正当化するような考え方をする柔道指導者はいないと述べた。

■武道必修化で事故リスクが高まる可能性

 全日本柔道連盟の調べでも、2009年までの6年間に複数の死亡例を含む56件の重大事故が起きている。同連盟は独自の安全対策の手引きを作成しているが、政府はこれまでのところ、学校で柔道を教える際の安全指針を発表していない。

 ある文部科学省関係者は、柔道の事故は課外活動中に起きる例が多いと指摘し、国としては個々の競技について負傷のリスクや安全対策のガイドラインは示していないと述べた。

 内田講師は、「柔道は面白いし精神論も大事なことは多い。それでも学校での安全対策はしないといけない」と述べ、武道が必修となった際にはさらに多くの子どもが事故のリスクにさらされると指摘した。(c)AFP/Harumi Ozawa