【12月24日 AFP】彼らは赤い服を着ていない。陽気でもない。それどころか子どもたちを怖がらせることに喜びを見いだしている。

 アイスランドのクリスマスに出現する13人のサンタクロースは、北欧神話に登場するトロール(妖精)やオーグル(鬼)の子孫で、「ユール・ラッズ(Yule Lads)」と呼ばれている。彼らの本質は悪(ワル)で、子どもたちの心には恐怖が植え付けられる。

 伝承によると、彼らはクリスマスの13日前から1人ずつ山から街へ下りてきて、家々を訪問し、子どもたちが窓際に置いた靴の中にお菓子かおもちゃを入れていく。ただし、行いが良くない子どもの場合は、じゃがいもを入れられてしまう。

 クリスマスの13日前にあたる今月13日、首都レイキャビク(Reykjavik)の国立博物館にはユール・ラッズの「長男」にあたるStekkjastaurが現れた。

 およそ100人の子どもたちが緊張の面持ちで待つ部屋に、彼は飛び込んできた。アイスランドの伝統的なウールのセーター、ニッカーボッカー、赤い帽子といういでたちで、赤らんだ鼻とほおは、ふさふさした白ひげに半分隠れている。

 彼は床を踏み鳴らしながら、「わしの名前の由来を知っているものはおるか?」と怒鳴り散らす。小刻みに震える2、3の手が挙がり、勇気ある子どもたちが叫ぶ。「体が硬いから!」「ヒツジのミルクを飲むから!」

 どちらも正解だ。13人のラッズにはそれぞれの「クセ」がある。彼の名前の英名は「Sheep-pen Clod(羊小屋の愚か者)」。羊小屋に忍び込んでヒツジのミルクを飲もうとするが、ひざが曲がらないので思うように飲むことができない。

■悪いサンタたちの変遷

 悪さをするとはいえ、民俗学者のSteinunn Gudmundardottir氏によると、ラッズたちは長い時を経て「徐々に優しい性格になりつつある」という。変化が起こったきっかけは、おそらく、親が子どもを「悪いこびとや悪いサンタ」で怖がらせることを禁じた1746年制定の法律だという。プレゼントを贈る習慣が始まったのは20世紀に入ってからで、米国のサンタクロースの影響だという。

 なお、神話に登場する彼らの母親(Gryla)と父親(Leppaludi)は、アイスランド史上最も恐ろしく、最も邪悪なオーグルとされている。だが、先のStekkjastaur(ラッズの長男)は、子どもたちに、「わしのおっかさんもずいぶん丸くなったよ」と話した。

「おっかさんが行儀の悪い子どもたちを鍋に入れて料理することは、ほとんどなくなったからな。わしらが監視の目を光らせておるし。子どもたちを料理しなくなったからといって、おっかさんが作る料理がまずいことには変わりがないけどな。ハッハッハッ」

■悪いサンタが生まれた背景

 民俗学者のGudmundardottir氏は、アイスランドでこのような神話が生まれた背景について次のように説明した。

「(アイスランドの冬は)昼がほとんどなく、山岳地帯では電気もありません。暗闇の得体の知れないものについて物語が紡がれていくことは、不思議なことではありません」

「人々は自然と密接につながっています。身近な所に、陰の中に、何か別のものが息づいていると想像するのは当然のことです」

 そして、火山と間欠泉がひしめき合う別世界の風景に包まれたこの国では、赤い服に身を包んだ聖人のごとき老紳士というサンタクロースの設定はいかにも似つかわしくない。(c)AFP/Agnes Valdimarsdottir