【10月6日 AFP】父親と男の親族だけが女性の結婚相手に関する決定権を持つサウジアラビアで今、女性たちが、この部族古来の伝統に立ち向かわんとしている。

 自分で選んだ結婚相手を父親に却下され、一生独身を余儀なくされる可能性に直面した女性たちが、父親の判断を不服として裁判所に訴え出るケースがこのところ増えているのだ。そうした女性の多くは大卒で、収入のある職業婦人だ。

 人権団体の調べによれば、過去6年間で訴えを起こした女性は86人に上る。うち13件は、ことしに入ってからのものだ。

■イスラムの教えと部族の伝統との相克

 今年7月、メディナ(Medina)の裁判所は、同僚の外科医との結婚を「違う部族の出身者」との理由で父親が認めなかったことを不服とした女性医師(42)の訴えを却下した。裁判所は父親の言い分を正当と見なし、「違う部族の者と結婚して父親に逆らおうとしている」と女性を非難した。

「不幸なことにサウジアラビア社会には奇妙なパラドックスが存在します。わずか10歳の少女を結婚させることが可能な一方で、大人の女性たちが筋の通らない理由で結婚を妨害されているのです」と、人権団体「National Society for Human Rights」のスタッフはAFPの取材に話した。

 イスラム教の教えでは、父親は、娘の結婚相手が高潔で敬虔なイスラム教徒である限りにおいては、その結婚に同意しなければならないとされている。また、前年亡くなった同国の高名なシャイフ(イスラム教の導師)であるアブドゥラ・ビン・ジブラーン(Abdullah bin Jibreen)は、「父親は娘の結婚を妨害してはならない」とのファトワ(宗教令)を出していた。

 だが、シャリーア(イスラム法)とともに極めて保守的な部族の伝統も重んじるサウジでは、娘が結婚するまでの間、父親が娘に対し絶対的な支配権を握ることが容認されている。そのため、政府や裁判所でさえ、女性が父親(父親が死去した場合は兄弟かおじ)の許可なく結婚することを認めていないのが実情だ。

■父親が結婚を認めない理由

 希望の相手との結婚が却下される理由で最も多いのは、「同じ部族の出身者ではない」というもの。サウジアラビア王国の中核は部族社会であり、国を左右する政治権力や経済力も部族が基本となっているという背景がある。反面、これを理由に娘の結婚を反対する父親自身は、違う部族の女性と結婚している、という例もある。

 幼くして既にいいなづけ(大抵はいとこ)が決められていたり、姉がまだ未婚だとか、娘の社会福祉給付金を父親があてにしているなどの理由で、結婚を許されない場合もある。

 AFPの取材に対しある大学教授(39)は、「お前にふさわしい相手など1人もいない」と父親から言われ、結婚相手をことごとく却下されてきたと語った。30歳を過ぎても結婚を許されず、父親とこのことについて直接話をしようとすれば脅され、部屋に閉じ込められたという。

 別の女性は、女性の年齢が35歳を超えたら父親や保護者の男性は結婚を認めるよう、国家が法で定めるべきだと話した。(c)AFP