自然派フレンチ美味の極致、父ミシェル・ブラス氏から息子へ
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【9月1日 AFP】高原の花やハーブ、野菜や根菜、きのこ類-「自然から料理を創造する料理人」として知られるフランス料理界の巨匠ミシェル・ブラス(Michel Bras)氏(63)が、世界の美食家の憧れの的である店の看板を息子セバスティアン・ブラス(Sebastien Bras)氏(38)に譲ることを決めた。
ホテル・レストラン「ミシェル・ブラス」は標高1200メートル、フランス・オーブラック(Aubrac)の丘の上の曲がりくねった道の先に、未来的でモダンな宇宙船のような姿を現す。果てしなく広がる空から、高原に戯れるウシたちに陽光が静かに降り注ぐ。のどかなカウベルとハチの羽音はいつも決まってヘリコプターや大きな四輪駆動車の音にかき消される。この店の至福の味に一生に一度は酔いしれたいと世界のセレブたちが駆けつけるからだ。
静かで控えめながら自然からのインスピレーションをどん欲に追求するブラス氏にとって、この高原こそがまさに原風景だ。郷土の味の洗練度を高め、20~40種類の季節の野菜を盛り合わせた料理が、大御所ミシェル・トロワグロ(Michel Troisgros)氏をして「これほどにまで感銘を受けたことはない皿」といわしめた、ブラス氏を代表する一品、「ガルグイユ」だ。
ガルグイユで使われる何十種類もの素材は、新鮮な生野菜はみずみずしいままに、熟成した味を引き出したいものはしんなりと柔らかくさせるなど、すべて最も適した方法で別々に調理され、ナッツ類やアンチョビのペーストや、エディブルフラワーの花びら、ハーブを添えて供される。
■自然の味覚の芸術を継ぐセバスティアン氏
11年前『ミシュランガイド(Michelin Guide)』で三つ星を獲得して以来、ディナーの予約は最低でも3か月待つこの店を、ブラス氏は先ごろ息子のセバスティアン氏に引き継がせることにした。
料理人20人が働くウルトラモダンなキッチンに立ち、セバスティアン氏は語る。「これからも父はキッチンには立ち寄り、『ガルグイユ』の野菜を切ったりするだろうし、チームの一員として調理はします。キッチンに父を入れないなんて、暗い森の片隅で彼を吊してしまうことに等しい」。
数々のオリジナル料理を生んできた父の仕事を受け継ぐことへの気負いは、セバスティアン氏にはまったくない。新しいメニュー作りを楽しみながら、父の名作は残している。「例えばガルグイユはずっと前に創作されたメニューだが、今でも信じられないほど新しい」のだ。セバスティアン氏はこのキッチンを継ぐこと以外の道についてはいっさい考えてこなかった。「この空気の中で育ってきた。ディナータイムのキッチンの緊張感。市場から帰ってくると、素晴らしい香りに満ちているんだ」
リヨン(Lyon)の料理学校で学び、ピエール・ガルニエ(Pierre Gagnaire)氏やミシェル・ゲラール(Michel Guerard)氏といったフレンチの巨匠たちの下で修行していた90年代初頭、両親が店を開き、呼び戻された。「父に甘やかされたことはいっさいないけれど、あのころはなんともきつかった。自分の父親にしかられている後ろで、20代のシェフ仲間がくすくす笑っているんだからね」
しかし今では「自分の技は自分の技、自分で覚えたものだ。模範を示しキッチンを引っ張っていく」と決意している。2人兄弟の長男でもあるセバスティアン氏は、父の味を引き継ぐことが、決して自分の創意を妨げることはないとも言う。
ランチもディナーもメニューは共通で3コース。このうち1コースは野菜だけのコースだ。「80年代にはこのコースは週に1、2回しか出なかった。それが今ではわが店の売り上げの10%になっている」。ほかのレストランでは付け合わせとして扱われることのほうが多い野菜だが、レストラン「ミシェル・ブラス」における野菜は、すべてのメニューの主役だ。
週数回は朝4時にベッドを飛び出し、60キロ離れたロデズ(Rodez)の市場へ向かう。父ブラス氏が自家栽培している数十種類の野菜や、周囲に咲く野生の花のほかに、さらに素材を足すためだ。「ミシェル・ブラス」のために特別に栽培した野菜を売ってくれる地元農家の人びともみな、セバスティアン氏が子どものころから知っている人たちだ。(c)AFP/Gersende Rambourg
ホテル・レストラン「ミシェル・ブラス」は標高1200メートル、フランス・オーブラック(Aubrac)の丘の上の曲がりくねった道の先に、未来的でモダンな宇宙船のような姿を現す。果てしなく広がる空から、高原に戯れるウシたちに陽光が静かに降り注ぐ。のどかなカウベルとハチの羽音はいつも決まってヘリコプターや大きな四輪駆動車の音にかき消される。この店の至福の味に一生に一度は酔いしれたいと世界のセレブたちが駆けつけるからだ。
静かで控えめながら自然からのインスピレーションをどん欲に追求するブラス氏にとって、この高原こそがまさに原風景だ。郷土の味の洗練度を高め、20~40種類の季節の野菜を盛り合わせた料理が、大御所ミシェル・トロワグロ(Michel Troisgros)氏をして「これほどにまで感銘を受けたことはない皿」といわしめた、ブラス氏を代表する一品、「ガルグイユ」だ。
ガルグイユで使われる何十種類もの素材は、新鮮な生野菜はみずみずしいままに、熟成した味を引き出したいものはしんなりと柔らかくさせるなど、すべて最も適した方法で別々に調理され、ナッツ類やアンチョビのペーストや、エディブルフラワーの花びら、ハーブを添えて供される。
■自然の味覚の芸術を継ぐセバスティアン氏
11年前『ミシュランガイド(Michelin Guide)』で三つ星を獲得して以来、ディナーの予約は最低でも3か月待つこの店を、ブラス氏は先ごろ息子のセバスティアン氏に引き継がせることにした。
料理人20人が働くウルトラモダンなキッチンに立ち、セバスティアン氏は語る。「これからも父はキッチンには立ち寄り、『ガルグイユ』の野菜を切ったりするだろうし、チームの一員として調理はします。キッチンに父を入れないなんて、暗い森の片隅で彼を吊してしまうことに等しい」。
数々のオリジナル料理を生んできた父の仕事を受け継ぐことへの気負いは、セバスティアン氏にはまったくない。新しいメニュー作りを楽しみながら、父の名作は残している。「例えばガルグイユはずっと前に創作されたメニューだが、今でも信じられないほど新しい」のだ。セバスティアン氏はこのキッチンを継ぐこと以外の道についてはいっさい考えてこなかった。「この空気の中で育ってきた。ディナータイムのキッチンの緊張感。市場から帰ってくると、素晴らしい香りに満ちているんだ」
リヨン(Lyon)の料理学校で学び、ピエール・ガルニエ(Pierre Gagnaire)氏やミシェル・ゲラール(Michel Guerard)氏といったフレンチの巨匠たちの下で修行していた90年代初頭、両親が店を開き、呼び戻された。「父に甘やかされたことはいっさいないけれど、あのころはなんともきつかった。自分の父親にしかられている後ろで、20代のシェフ仲間がくすくす笑っているんだからね」
しかし今では「自分の技は自分の技、自分で覚えたものだ。模範を示しキッチンを引っ張っていく」と決意している。2人兄弟の長男でもあるセバスティアン氏は、父の味を引き継ぐことが、決して自分の創意を妨げることはないとも言う。
ランチもディナーもメニューは共通で3コース。このうち1コースは野菜だけのコースだ。「80年代にはこのコースは週に1、2回しか出なかった。それが今ではわが店の売り上げの10%になっている」。ほかのレストランでは付け合わせとして扱われることのほうが多い野菜だが、レストラン「ミシェル・ブラス」における野菜は、すべてのメニューの主役だ。
週数回は朝4時にベッドを飛び出し、60キロ離れたロデズ(Rodez)の市場へ向かう。父ブラス氏が自家栽培している数十種類の野菜や、周囲に咲く野生の花のほかに、さらに素材を足すためだ。「ミシェル・ブラス」のために特別に栽培した野菜を売ってくれる地元農家の人びともみな、セバスティアン氏が子どものころから知っている人たちだ。(c)AFP/Gersende Rambourg