【8月31日 AFP】ウィーン風カツレツからレモンマカロン、バルサミコ・ビネガー風味のタマリンド(東南アジアの果実)アイスクリームといった高級スイーツまで― 今、米ニューヨーク、マンハッタン(Manhattan)の街角で、これまで労働者の食欲を満たす食べ物を売ってきた屋台に取って代わって、こうしたグルメ屋台が人気上昇中だ。

 西海岸で始まったグルメ屋台ブームのニューヨーク進出を後押ししているのは、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)やツイッター(Twitter)を使った宣伝手法だ。

「今日は52丁目の6番街と7番街の間で、11時半から14時まで営業中。天気は良好、シュニッツェル(仔牛のカツレツ)も揚げたてだよ」とツイッターに書き込むのは、オレグ・ボス(Oleg Voss)さん(28)。ボスさんのツイッター屋台情報には、5400人にものフォロワーがついている。

 ニューヨーク大学スターン経営大学院(New York University's Stern School of Business)を卒業したボスさんが、兄のジーンさん(35)や仲間2人と、ウィーン風カツレツの屋台を始めたのはつい最近のことだ。不況で転職を余儀なくされたからだった。「ウィーンの投資銀行に就職したんだが、不況が始まったころで、最後まで就職できなかったのも僕だったし、最初にクビになったのも僕だった」

 ウクライナ出身のボスさんは、ウィーンで食べたシュニッツェルにほれ込んだ。ニューヨークでは「仔牛肉は高いから、チキンか普通の牛肉を使っている」という。だが、パン粉は揚げる直前につけ、揚げ油にはオーガニック・オイルを用いるなど、食通ニューヨーカーの舌を満たす「最高級の品質」を心がけ、マンハッタンの弁護士や銀行マンを相手に1食約10ドル、1日200食を売り上げる。

■元銀行マンからマーケティング業界人まで、ユニークな屋台店主たち

 現在、マンハッタンで営業する「グルメ屋台」は十数軒で、マンハッタンに繰り出す屋台の1割にも満たない。進出を望むレストランは多いが、屋台の営業許可を得るまでの手続きが難儀なことから、実際にはなかなか屋台を出すことはできない。

 さらに、カップケーキやペストリー(菓子パン)の屋台「ストリート・スイーツ」を夫婦で営むグラント・ディ・ミル(Grant Di Mille)さんは、アイスクリーム移動販売フランチャイズ店の一団から脅された経験を持つ。「アイスクリーム売りの『マフィア』が3人やって来て、トラックに火をつけるぞと言われたよ」(ディ・ミルさん)

 2年前に屋台を始める以前、ディ・ミルさん夫妻は約20年間、マーケティング業界で働いていた。「自分たちで商売をしてみたかった」というイラン生まれの妻、サミアさんは、屋台を始めるにあたって、母親が作っていたお菓子からヒントを得たという。なんとか市から営業許可が下りたあとは、ニューヨーク市警の警官たちとも顔見知りとなり、ビジネスは軌道に乗ってきた。今ではマンハッタンの企業やスポーツクラブのイベントへの仕出しのほかに、スイーツ専用移動販売トラック1台の貸し出しもしている。

■最先端レストラン顔負けの味

 ボストン(Boston)のバスーン奏者、ダグラス・クイント(Douglas Quint)さん(39)。バスーンを吹くのは冬季だけで、夏の間はマンハッタンのユニオン・スクエアの一角で、アイスクリームを売っている。

 クイントさんが手がける屋台、「ビッグ・ゲイ・アイスクリーム・トラック(Big Gay Ice Cream Truck)」は、ただのアイスクリーム屋ではない。例えば、「ソルティ・ピンプ」はバニラアイスにキャラメル、シーソルト、チョコレートをトッピングしたアイスクリームだ。このほか、オリーブオイル、シーソルト、カレー風味のロースト・ココナツ、カボチャのジャム、カルダモンやエルダーフラワーのシロップなど、ユニークなフレーバーばかりだ。

 「アイスクリームが大好きな人は多いのに、どこの店も同じようなものしか売っていない」というクイントさん。「うちのアイスは品質がよいものを使っているし、トッピングも豊富。見慣れないフレーバーのアイスも、食べたお客さんは、みな気に入ってくれるよ」と、味には絶対の自信をもっている。

 「グルメ屋台のトレンドは、ますます上向きだよ」と話すクイントさんは、サンフランシスコ(San Francisco)で行われる屋台フード業者の会議に向かう準備に忙しそうだ。(c)AFP/Paola Messana